四竜帝の大陸【青の大陸編】
「何が……どの言葉がりこの気に触ったのだろうか?」

我は鉄鍋の中で考えた。
我がりこをとても想っていることを話したつもりだが。
肉体の変化も我がつがいであるりこを、深く愛しているという証明だと言ったつもりなのだが。

だが。
りこは怒った。
怒っただけではない。
悲しみも混じった感情だった。
怒らせ、悲しませた。
我はまた、失敗したのだ。
我の‘足りない’部分が、またもりこを傷つけてしまった。
あぁ、我の愚か者め!

「おい。すっかり鍋がお気に入りみてぇだな、じじい」

街外れの緑地に落ちた我の鉄鍋を、現れた<青>が蹴り飛ばした。
転がる鉄鍋の中で我は蓋に爪を立てて、取れぬように努力した。
蓋をしたままの状態を維持せねばならぬのでな。
りこが出ていいと言うまでは。
む?
術式は使ってはいけないと言われたな。
む……りこの元へ、どうやって帰るのだ?
さすがに我も、鉄鍋に入りつつ移動するには術式がいるぞ。

「じじーいぃいい! 無視してんじゃねぇっ」

<青>か。
ふむ。

「<青>よ。我をりこに届けろ。届けたら速やかに去れ。我のりこに2ミテ(2メートル)以上近寄れば眼を抉る。触れたら殺すぞ」
「あ~の~なぁ。それが人にモノを頼む態度か? 鍋の中なのに偉そうにっ! 誰のせいで俺様がまたまた帝都からカっ飛んで来たと思ってる!」
「知らん。そんなことより、りこだりこ! 我をりこに運べ」
「この色ぼけじじいがっ! おちびの元に連れてく前に話がある。バイロイトから電鏡で連絡が来た。ヴェル……お前、とうとうおちびに手をつけやがったな。しかも金の眼だって? いったいおちびに何しやがった?!」
「何とは?」
「とぼけやがって……。おちびはもう人間には戻れない。竜にもなれない。【異端】の存在だ。ああなったら……死んでも元の世界に魂が帰れないぞ? 異界の生き物はこちら側で殺してやることで、魂をあっちの世界に帰してたのに!」

年若いとはいえ、竜帝の1人。
<青>は気づいたか。
まあ、かまわんが。
我がりこを逃すわけなかろう?
我から……この世界から魂だけになろうと、我から逃したりはせぬ。
もっとも、魂だけになることなどないが。

死なせるものか。
りこは我のものだ。

永遠に。
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