四竜帝の大陸【青の大陸編】
食欲、か。

「りこ……」

食欲と、性欲。
りこに出会うまで『欲』に疎かった我には、その境目が曖昧なものやもしれぬ。
気をつけねば。
無意識に舌なめずりしてしまう自分に反省しつつ、りこの事を考えた。
もっとも、我の脳内はいつだってりこでいっぱいなのだ。
我はりこのモノを纏った指を、爪の先まで丹念に舐めた。

「……甘いな。女の愛液など、蝸牛の粘液と大差無いと思っていたが」

女の股を眺めるより、蝸牛の食事風景を観察するほうが良い我だが。
蝸牛の食事風景なんぞ比べられぬほど、りこのほうが良い。

「………………口ですべきだったな」

そうすれば、もっと摂取出来たのに。
あぁ、我はなんと“うっかり”で“お馬鹿”なのだ!

「次からは、その点を注意するとして」

甘い体液から得たりこの情報を、脳内で整理してみると。

「うむ……与えすぎたかけらが馴染むまで、1時間弱か」

りこは我の血肉を摂取するのは抵抗があるようだったが(以前、朝食に志願したら食べてもらえなかった。硬くて食べずらそうだしな)。
かけらは美味いといっていた。
我のかけらを味わう表情が。
菓子を食べる時に浮かべる微笑みよりも。
どことなく艶めいて見えるのは、常に我がりこに飢えているからか?

「あぁ、りこよ。我はもう、りこ以外の女はいらん。他の女には触られたくない……りこだけに触れて欲しいのだ」

りこは、我が初めての男だった。
竜珠を与えた時に採取した唾液からの情報は多岐にわたり、しかも正確だ。
人間は寿命が短いので(他の動物よりは長いが)26年も生きていれば、未通の女はめったにいない。
貴族階級になると、初潮を迎えぬ幼い娘すら嫁に出す。
この世界では26前後の女は母親となり、数人は産んでいるな。
だが、りこは違った。
唾液からもたらされた情報に、どんなに我が歓喜し感謝したことか!
他の者の‘気’が全くついていない、まっさらな状態。
都合が良かった。
我の‘気’でりこを染め上げ、作り変えるのに。

「りこ……」

非常に、やりやすくなる。
りこの世界は晩婚が主流なのだな、きっと。
婚約者がいたらしいが。
我のりこに婚約者……考えただけで内臓を吐きつつ、暴れ狂いそうになるな。
そやつが腑抜けで良かった。
接吻の仕方すら、りこに教えていなかったようで。
支店の屋上ででりこがしてくれた接吻は、唇を合わせただけのものだった。
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