四竜帝の大陸【青の大陸編】
我は。
あのような接吻は初めてで。
衝撃のあまり、息をすることも忘れた。
どんな女の官能的な接吻も、りこがくれたあの接吻にはかなわない。
我は陶酔の中で。
我慢しきれず求婚した。
今思えば……既にあの時、我の理性は切れてたな。
恐るべし、りこ!
なんの技巧もないりこの‘ちゅう’1つで、我はおかしくなってしまったのだから!

「……りこが命懸けで我を愛してくれたのに、我は肉体強化に失敗したのだ。……あのような目に合せておきながら」
 
我は自分の能力の限界を知った。
四竜帝を引き裂き、世界を壊すことは可能でも。
愛する女に不死を与えることは、我には不可能なのか?

「りこ、りこよ。我を責めて、罵れ」
 
りこが憶えていなくとも。
我は憶えている。
 
我はりこのか弱く、脆い身体を欲望のままに貪ったのだ。
力の加減も忘れ、骨を砕いた。
意識を失ったりこを。
りこの身体を。
狂喜し、抱いた。
りこの肉に溺れ、血に酔いしれ。

それでも。
りこは。
嬉しかった……幸せだったと言ってくれたのだ。

だから。
我は決めた。
りこが欲しがってくれなくては、我はりこと身体を繋げてはいけないと。
身体は我を拒んでいないと、体液で分かる。
人間の肉体は強い快楽を与えてやれば、容易に陥落するものだ。
快楽に弱いからこそ繁殖能力が高いともいえる。
そのような造りの生物なのだから。
でも、我は。
快楽により求められるのではなく。
心の底から。
存在全てで、求められたい。

りこの口から。
言って欲しいのだ。
この唇で。
我が欲しいと。
我だけが欲しいと。

「りこ。もっと、もっと我を欲しがってくれ……」
 
我はりこから身体を離し、術式で温室の外に出た。
振り返ると。
強化ガラスのむこうで。
小さなりこが毛布に包まり、寝入っている姿が目に入る。
気象条件の厳しいこの地で過ごすため、<青>が用意したこの温室は。
りこ専用の豪華な鳥籠だ。
<外>では長く生きられぬ、か弱い小鳥の為の。
我の宝を護る、宝石箱のような『檻』。

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