四竜帝の大陸【青の大陸編】

番外編~wish~

『ハクちゃん。この絵本のお話って、けっこう大人向けじゃない? 悲恋物でしょ?』

りこが我のつがいになり、2週間程たった。
魔女に言葉を習っているりこは、昼間は意識して公用語を使おうと努力しているが……。

『ハクちゃん、ハクちゃん? 聞いてるの?』

2人だけで過ごす夜になると、異界語で我と念話を用いて会話をしていた。
我としては。
苦労して公用語など喋れるようにならずとも、我と念話が出来るのだから良いのではないかと思うのだ。
りこは我だけと……。

==うむ。すまぬ、りこに見蕩れておった。

りこの身に着けている夜着は、上品な光沢のある絹で。
柔らかな肌をすべるような生地は、りこの小さく華奢な身体の線を露にし。
魔女が用意したそれは、りこにとても似合う。

が。
少々、……我としては複雑だ。
昼間は竜族の妻らしく、露出の一切無い衣服を身に着けているりこだが。
寝台で我と過ごす時の、りこの夜着は。

==……。

なんというか、その……おのれ、魔女めっ!
我がりこに未だ触れられぬことが分かっていて、このような夜着を……どこまで嫌がらせをするつもりなのだっ!?

あやつは、先代魔女の恨みを引きずっているのか!?
我は細かいことを気にせん性質だが、男と魔女は無理だと昔から公言しておっただろうがっ!

『またまた~、私……見蕩れる要素なんか無いもん』

寝台に座っていたりこは、そう言って本を閉じた。

『ね、このお話って昔の御伽噺なの? とっても綺麗ですごく冷たい<氷の帝王>って呼ばれた魔物に恋したお姫様が零した涙で、神様が<星の河>を作ったなんて……』

==……人間の女の涙が、星になることは有り得ない。くだらない昔話だ。

我の前で、多くの女達が泣いたが。
女が出した涙は、単なる分泌物であり。
それ以上でも以下でもない。
涙が星になるわけがない。

『ハクちゃんって、見た目はめちゃくちゃ可愛いのにな~。ふふっ、意外と情緒無いタイプ?』

苦笑したりこは寝台から降り、ソファーにかけてあった上着を羽織った。

==我は、可愛いか?
『うん、とっても可愛い!』
==……そうか、可愛いか。

揺れる黒髪が、我の心を優しく撫でた。


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