四竜帝の大陸【青の大陸編】

57(おまけの小話あり)

「あん? ……なんだって? もう1度言ってくれるか、パス」

俺は床に転がした術士の右手首を踏みつけ、血と泥で汚れた手のひらに短剣を刺した。
床に固定させる為に、深々と差し込む。
左手と両足にも同じ処置をした。
薬を打たれ意識の無い術士は、全くの無反応で……つまらない。
術の起動には手のひらの<基点>が重要な役割を持つので、こうしておけば術式は使えない。
ま、最高位クラスの術士になると<基点>を潰しても無駄らしいんだがねぇ……。

「え~、だからぁ! これで追いかけっこしてたらちっこい人間の女が捕まってて、匂いと気がヴェルヴァイド様ので……金の眼してて。一応、陛下にはこいつを捕まえてすぐに、電鏡で連絡いれといたけど。陛下が逃げろって言ったしさ~」
「……姫さんか」

ああ、全く……なんてこった。
姫さんと鉢合わせしたのか。
だから、旦那は。

「そういえば……奥方様は拉致される際に、頬を打たれたらしく顔が腫れていました。術士の男は我々が彼女はヴェルヴァイド様の奥方様だと言ったのを聞きとり、彼女を捨てて逃げたので追いました」

おい。
なんだってー!!

「オフ、姫さんは怪我してたのか? てめえら、怪我したあの子をほっぽらかして術士を追ったのか!」

オフランは首をかしげた。

「いけませんでしたか? 大した怪我ではありませんでしたし、何よりあの場に留まっていたら我々が殺されていました……ぶち切れたヴェルヴァイド様に。陛下から退避命令も出ましたし」
「このクソ餓鬼が! 旦那は姫さんの目の前じゃ、殺しはしねぇんだよ……ちっ、ややこしいことになっちまったなぁ」

そのぶち切れた旦那の気に飛び起きた陛下は、まだ不安定な皮膚を特殊な包帯で固定して。
避難命令を出し、旦那のもとに駆けて行った。
内部損傷が激しく、竜体になれない最悪の状態の身体を無理矢理に動かし。
たった1人で。
<竜帝>に旦那を止める力は無い。
陛下は城の竜族を逃がすため。
盾になるために……死にに行ったんだ。 
今回は被害も大したことは無く、陛下も死なずに済んだが。
だが……。
パス達の会話から、姫さんが<監視者>のつがいの娘だと察しただと?
つまり、そいつは<監視者>が<ヴェルヴァイド>だと知っていたということだ。
旦那は自分から<ヴェルヴァイド>と名乗ることはしない。
竜族が昔からそう自分を呼ぶから、便宜上容認しているというか……。

「……」

近年の人間の中で<ヴェルヴァイド>と<監視者>を同一の存在だと知っているのは、気づいているのは極少数。
が、この術士は知っていた。
この程度の術士が、何故だ?


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