四竜帝の大陸【青の大陸編】
「はい。行ってきます、ハクちゃん」

それを見て、ハクちゃんは竜なんだから同じ竜族の帝都に移動してきてやっぱり正解だったと改めて思った。
支店でも感じたけれど、竜族の人達はセイフォンの人達……『人間』とは違う。
セイフォンで初めて会った時、カイユさん達は最初から……特にダルフェさんは、ハクちゃんにとっても気さくに声をかけてくれた。
支店では小さなミチ君達だって、ハクちゃんを怖がるってよりは興味津々って感じだった。
でも、セイフォンでは……セシーさん以外はハクちゃんを見る眼が、隠しようも無い恐怖心に満ちていた。
その事がとても悲しかったし、あんなにあからさまな反応は正直嫌だった。
ハクちゃんは<監視者>っていうお仕事(私は未だに、彼の仕事内容がよく分かっていない)してるらしいんだけど。
理由無く他人を傷つけたり暴れたり、物を壊したりなんかもしない。
私の事で揉めなければ、基本的には大人しくて良い子(あの頃は大人だと思ってなかった)だったから、セイフォンの侍女さん達のあの眼、反応は……ショックだった。
帝都……竜族の都であるここでは、ハクちゃんをあんな眼で見る人はいないよね?
私さえ、注意して行動すれば。
ハクちゃんと2人で……微笑みながら、穏やかに暮らせるはず。
竜帝さんとも、なんだか良い関係みたいだし!
友達……じゃなくて、歳の離れた兄弟?
んー、なんか違う?
…………親子?

「……」 
「トリィ様?」

足を止めてしまった私を、カイユさんが……ちょっとだけ不安そうな顔をして言った。

「どこか痛みますか? ご気分は大丈夫ですか?」
「え? あ……」

痛み、気分……。
あれ?
そう言えば。
泥棒(?)のおじさんは、どうなったんだろう?
化け物に追われてたって言うのは、嘘だったんだよね?

「……わ、わたし! あのっ……」

んー……なんか、変。
ハクちゃんは私に一言も聞かない。
誰に頬を叩かれたかを。
約束したのに、どうして薬草園から出たのかすら聞かない。
私にたいしては心配性で超過保護の、ハクちゃんが……。

「い、いえ! 大丈夫! へ、平気です! 行きましょう、カイユ」
「トリィ様?」

私はカイユさん手をとり、早足で部屋に向かった。
あの時、ハクちゃんは少々取り乱したなんて言ってたけれど。
本当は、かなり危ない状態だったはず。
ハクちゃんは頭も心も、混乱しちゃってるみたいだった……だからかな?
せっかく落ち着いてる状態に戻った彼に、わざわざその原因になった事をこちらから話すのも……。
見習い(かな?)騎士さん達が追って行ったんだから、おじさんはもう捕まってるはず。

「…………」

もう、ハクちゃんをこれ以上刺激したくない。
彼から何か言ってくるまでは、その事には触れずにいたほうが……うん、そうしよう。
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