四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ええ! お散歩、行きますとも! ハクちゃんも早く竜体に戻って。抱っこでお散歩したいって言ってたでしょう? 人型じゃ、抱っこしてあげられないよ?」
「む!? それは困る。我は今日はりこの抱っこで散歩すると、昨夜から決めておったのだからな」

そう言いながら小竜に戻ったハクちゃんは、私のお膝にちょこんと座った。

「りこよ。乳が痒い時は、遠慮なく我に言うが良い。お手伝いしてやるぞ?」
「けっこうです」

奇天烈謎思考回路ハクちゃんとこんな私の新婚生活。
はたして、夢見たような甘~いものになるんだろうか?
ちょっと、自信が無くなった私だった。

「……はぁ~」
「トリィ様? どうなさいました?」
「えっ、いえ! なんでもないです、うん! 問題無しです、た、多分っ!」
「……もし、ヴェルヴァイド様との夫婦生活に‘問題’を感じたら、カイユに何でも仰ってくださいね」

にっこり笑って、カイユさんは言った。
カイユさんったら、勘が良すぎます!

「……ふぅ」

私は両手で、顔を隠した。
熱い。
頬が、顔が熱い。
身体の内側から広がるこの熱が、恥ずかしさだけじゃないのが自分でもちゃんと分かってる。
彼の冷たい唇や大きな手、長い指の動きが私の肌によみがえって……記憶の中のそれを追って、なぞって……ぞくりとしたのは、寒気がしたからじゃなくて。

指の隙間から見る正面の鏡の映る室内には。
天蓋付きの、大きなベッド。
それを見て、ハクちゃんとのここでした会話を思い出してしまう。

ーーそうだ、りこ。なかなか良い感じの寝台があったぞ。体調が良いなら昼寝は中止して、我と交わらぬか?
ーーま、まままっ交わるっっ!?
ーー我と交尾をしようと言ったのだが?

「……ぁ」

竜族であるハクちゃんは。
私というつがいを、伴侶を得たから蜜月期という発情期間に入ってて……私としたいって、とても強く感じて……したいって、思ってくれているのよね?
蜜月期は竜族の繁殖期……繁殖、子供を作るということ。

「……ハクちゃんの、ハクの……」

子供。
ハクの、彼と私の子供。
私は、これからここで暮らして……ハクと愛し合って、彼の子供を授かるの?

「……っ」
「トリィ様?」

再び背筋を駆け抜けたそれは、蕩けるような甘さで私の本能を刺激する。
竜族である彼と人間の私が『交尾』して、私は妊娠して赤ちゃんを生んで……私達は『家族』になる。

「ううん、なんでもないの。カイユ、髪を綺麗に結ってくれてありがとう。この白い花、ハクちゃんが喜んでくれるといいな」
「きっと、喜ばれますわ。妻が夫のために飾り、装うことを竜族の雄はとても好みますから」

私は、気づいた。
私の抱く、確かな欲望に。

「そうなの? ふふっ、それって女性にとっても、とても嬉しいことね」
「ええ」

それは。
『未来』への願望であり、欲望。


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