四竜帝の大陸【青の大陸編】
りこが入浴する為に洗面所なる部屋に入ってしまい、我は再びりこと離れ離れになった。

我はその洗面所なる場所が、嫌いになった。
りこと引き離されるのは辛い。
人間のりこには、竜のその思考が理解できてない様だが。

『そのように扉に張り付かなくても、トリィ様の念話は届くでしょうに。未練がましくてよ、ヴェルヴァイド様』

相変わらず煩い女だ。

『黙れ、<魔女>。お前の‘言霊‘は強い。りこの念が聞き取りずらくなる』

 
皇太子達は王の元に報告に行き、入れ替わりにこの女が戻ってきた。
入浴・着替え助ける為に残った侍女2人は、りこと共に洗面所だ。
室内に我と二人だけになった途端、女は猫かぶりをやめた。
王の臣下ではなく<魔女>にもどった。
 
セシー・ミリ・グウィデスは魔女。
竜族なら周知の事。
人間達は知らないようだが。

『うふふ。可愛らしいお嬢さんね。それに強い。異界から落とされたのに、落ち着いて状況を把握しようと努力しているわ』

りこが強いだと?
貴様には分かるまい。
りこがどんなに泣いたか、悲しんだか。
今だって無理をしている。

この世界で生きていく為に、憎悪を押さえ込んで……我にも微笑んでくれている。
りこは術士と皇太子を罵ったりはしなかったし、厳罰も望まなかった。
ただ、要求しただけだ。
身の安全を保障すること。
衣食住の提供。
それと、教育。
生まれた世界から愚か者達のせいで‘落とされ‘たのだから、もっと望めば……望んでくれたら我は安心できたのに。

りこが失ったもの以上の対価を与えねば、りこを我の世界に引き止めるのは難しい気がしている。
りこがここで多くの望みを叶え、多くの物を手に入れれば……この世界に留まらせることができると。
対価を得たのだから、失った<世界>はあきらめろと。

全てをあきらめて。
我以外、全て捨ててくれたら良いのに。
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