四竜帝の大陸【青の大陸編】
りこは我と<つがい>になってくれた。
が、生まれた世界を捨て切れていない。
それは、当然だ。
まだこちらへと落とされたばかりであるし、我には無い感情だが『望郷』というものを、人間は強く持つ者が多いらしいからな。

『ヴェルヴァイド様。昨夜は度、宮に入られたのに何故こちらに?そのまま宮に居てくだされば私達も楽でしたのに。日の出の頃、私はミー・メイを宮に連行したのよ。宮から出てきてくださらないし、3時間も待たせた挙句に宮から消えてしまわれて。私達が門の前にずっと居るのは分かってたくせに。酷いですわ……何してたのかしらね? うふふ』
『下世話な想像はやめろ。頭蓋を破裂させるぞ』

古い通り名で我を呼ぶ人間は、この<魔女>くらいだ。
<魔女>はテーブルに朝食を並べ、暖かな茶を白磁のカップに注ぎながら勝ち誇ったように笑った。

『やれるもんなら、やってごらんあそばせ。脳髄を撒きちらせた私の死体をトリィ様に御見せになるなんて、どうなるか分かってらっしゃる? それに私は彼女に好印象を持たれてるわ』

そうなのだ。
忌々しいことに。
りこの中で、この女は頼りになる人という刷り込みが行われている。
トイレ使用方法の伝授は高得点らしかった。
我には教えられなかった。
ますますこの女が嫌いになった。
ふむ、今日は嫌いなものが増える日なのであろうか?

手際よくりこの為に朝食を準備出来ることも忌々しい!
くっ……我にはとてもできぬっ。
我がりこに食べさせようとした我の硬い肉などより、見るからに美味そうだ。
まぁ、我は『美味い』という言葉は知っておったが、今まで体験したことななかった。

りこの唾液が我の『美味い』の、記念すべき初体験なのだ!

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