四竜帝の大陸【青の大陸編】
「イテテッ……俺様は執務室に戻る。ま、後はよろしくな」

片手に骨付きソーセージを持ち、齧りながら温室から南棟廊下へ続く扉に向かって歩き出す。
ドアノブを包帯に包まれた手で回しつつ、彼は振りかえった。

「明後日から、教師を此処に寄越す。詳細は後でカイユに伝えとく。……これから大変だが、頑張れよ、おちび」
「は、はい!」

真っ青な髪に縁取られた美貌の微笑みにくらくらしつつ、私は頭を深々と下げた。
だって。
竜帝さんの怪我の原因は、私が関係している。
しかも、彼のお城の一部や薬草園を壊してしまった。

でも。
竜帝さんは私を一言も、責めない。
きっと、彼には分かってるのに。
私がこの世界を一瞬でも、見捨てたことが。
親切にしてくれた皆を切り捨てて、あの人の事だけを……。

「りゅ、竜帝さんっ……あのっ、わたっ……私はっ」

私は、私はあの時……。
そんな私に竜帝さんは、ソーセージをくるくる回しながら溜め息交じりに言った。

「……俺様に、そんな礼をとるんじゃねぇよ。ったく、自分の立場を全く分かってねぇな。ま、それがお前の良いとこか」

頭を上げられない私にかけられる声は、呆れているような……。
呆れているようなのに突き放す響きはなく、穏やかなものだった。

「おちび、じじいをよろしくな。前にこの世界を愛してくれと言ったが、撤回する。お前はじじいだけ、想ってくれてれば良い。そのほうが良いんだ、きっと……じゃ、またな!」
「……」

私は彼に何も言えず。
竜帝さんが、扉から出て行くのを見送った。






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