四竜帝の大陸【青の大陸編】
「旦那、勘弁してやって下さい。青の竜騎士は俺を含めて、現在8人しかいねぇんです。竜族全体の個体数が激減してる状況じゃ、こんな馬鹿餓鬼でも失うのは痛いんですよ。姫さんに面通しもしましたし……ぐがぁっ!?」

我は<赤い髪>の頭部を正面から掴み、床に叩き付けた。
これはりこの‘お気に入り’なので壊しはせぬが……。

「貴様……りこの心を利用したな?」

動かなくなったそれは放っておき。
幼竜に歩み寄り。
身を屈め、一方の……翡翠の眼をしたほうの幼竜の左頬に手を伸ばした。

「我のりこは、人間だ。お前等と違い、弱く脆い身体は簡単に壊れ……命が消える」

幼竜は石の様に硬くなり、微動だにしない……動けぬのだろう。
怯えることすらできぬ状態に陥ったのか。
一瞬でも抗えば、首をねじ切ってやろうと思っていたが……つまらんな。

「青の猟犬共よ。真実から遠ざけられている我が妻は、お前等の過ちを全く理解しておらぬ。それゆえ、礼まで口にした。我がお前等を処分する可能性があるなど、考えもしない……りこは、それで良い。気づかぬままで、無知なままで良い。……今回は見逃してやろう。だが、次は無い」

我は意識して【気】を抑えることにした。
りこが側におらぬと、感情に引き摺られ【気】が常より強まってしまうようだ。
感情……か、この我が。
りこが我に‘感情’を与えてくれた。
愛しさも喜びも……恐怖も怒りも、貴女が我に教えてくれたのだ。

「……」
 
さて。
これらを使い物にならん状態のまま、放置するわけにはいかんな。
生かしておくなら……使うとしよう。

もう1頭の幼竜の頭が壊れた振り子のように動き、同時にダルフェがゆっくりと立ち上がった。
頭蓋を砕いた程度では、堪えておらんか。
<青>もダルフェも、我の思っていた以上に頑丈だ。
ふむ、次はもう少し強くするか。

「ダルフェよ。その愚かな猟犬共を、市街に放て。ヒンデリンは城内に入り込んだ鼠を始末しろ」
「御意」

幼竜に手を貸し、立たせていたヒンデリンは我の命に従うべく退室した。
ヒンデリンは、りこを喜ばせた。
りこは花が好きだ。
とても嬉しそうだったので、ヒンデリンの過ちは不問だ。
ダルフェは赤い頭を擦りながら、言った。

「いててっ、……手加減感謝しますよ、旦那。で、方針転換ってことですかぁ? ま、旦那がそう言うなら。でもねぇ、本当にそれでいいんすか? もし、姫さんに知られたら……」

鮮やかな緑の眼に、戸惑いが滲む。

「かまわん」

りこは何も知らぬまま。

「誰がりこに教えるというのだ? そのような者、この我が見逃すはずなかろう?」

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