四竜帝の大陸【青の大陸編】
我が用意した<世界>の中で。
我の側で、微笑んで。
りこは我を、愛してくれるだろう。
虚構に気づいた時には、我から離れることなど考えつかぬほど……我は貴女に愛されてみせる。
我はりこの全てを。
心も身体も魂も。
あの人の全てを、手に入れるのだ。 

「帝都に入った間者は、全て消せ」
 
過ぎた恐怖は得策ではないと思い。
他にも策はあると、最善のものは何かと考えていた。
だが、もう考えるのは止めだ。
考えられぬほど、我を怒らせたのは人間共だ。

「現在、帝都にいる者も。今後、入ってくる者も」

抑えようと思った。
貴女の為なら、脊髄を焦がし焼き切るような怒りにも耐えられると。

「殺せ」
 
だがな、りこ。
頬を腫らした、貴女の痛々しい姿が。
脳裏に焼き付き、消えない。
このままでは、狂いそうだ。

貴女の好む‘優しいハク’になりたかったのに。
我には無理だ。
所詮は模倣。
安っぽい鍍金と同じで……偽りのそれは、簡単に剥がれ落ちる。
我の奥底には、剥がれた鍍金を拾い集めようともがくモノが確かに存在する。
それを纏い 
これが、感情を得た代償なのか。

「仰せのままに、ヴェルヴァイド様」

<赤い髪>が恭しく頭を下げ。
幼竜共もそれに習い、恭順を示す。
我への敬いの心など、この幼竜共には欠片もない。
我に対する本能的な恐怖から、深く頭を垂れるのだ。

恐怖。
皆、我を恐れる。
それでいい。

りこ、りこよ。
もし。
我の判断が……我のみに向けられていた恐怖心に満ちた瞳を、<監視者の妻>である貴女にも同様に向けられる切っ掛けとなり。
貴女の脆い心を、傷つける結果になったなら。

この我が。
貴女のハクが。
それを塗り替える程の恐怖で、世界を満たそう。
貴女に目を向ける余裕も無いほどの恐怖と狂気を、人間共に与えよう。
大切な貴女は、宝箱にしまって……けっして外に出したりしない。
 
全ての憎悪は、この我に。
りこ……愛しい貴女には、優しく綺麗な<世界>をあげるから。
安心して、まどろんでいて。
 
本当は。
黒い衣服が着たかった。

愛しい貴女の髪……。
我が染め替えてしまった、優しい瞳。
りこの黒、漆黒ではないそれは優しい夜の色。
我の好きになった、我の聖なる色。

だが。
今の我は。
貴女の色を身に纏うことなど出来ない、してはいけない。
怒りの為か爪は常より鋭さを増し、鋭利な刃物のようになり。
触れたもの全てを凍らせてしまいそうなほど、冷たくなったこの手では。
貴女の肌に、触れられなかった。
こんな我を知られたくなくて。
手袋で覆い、貴女から隠した。

「さあ、猟犬共よ。【狩り】を始めようではないか」

我は<白金の悪魔>

「我の宝に群がる獣を狩り尽くせ」

我は<冷酷なる魔王(ヴェルヴァイド)>


貴女に愛されたい、泣き虫な白い竜。







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