四竜帝の大陸【青の大陸編】
「……我の大切な妻を」

蛆からは、脳を触らずとも既に記憶を読み取っていた。
こやつがりこに何を言い、何をしたのか。
我のりこに。

「雌蜥蜴と罵り、手を上げたな? りこのような愛らしい生き物の頬を躊躇い無く打つなど、貴様はこの上なく冷酷な鬼畜だ。……我など、貴様の足元にも及ばぬな」

蛆の記憶の中で、りこは。
頬を打たれたことをすぐには理解できぬ様子で……金の眼を見開いて、呆然としていた。
暴力など知らず、親にさえ手を上げられたことなど無く育ってきたのだろう。
慣れぬ暴力に恐怖し、動けなくなり……。
 
「さらに稚拙な転移術で、りこの身体を痛めつけるとは……」

この我でさえ……りこを伴う術式での移動においては、徹底した安全管理を心がけているのだぞ!?

尽きず湧き出る怒りのために、蛆を殺しそうになるが……耐えた。
まだ、早い。

「まったく……憤死しそうだな。死ねん身体で良かった、りこを未亡人にしなくて済む」

蛆の記憶から、りこに関する全てを奪った。
簡単なことだ。
脳の一部を溶かせば良いだけだ、術式を使うまでも無い。
蛆の脳内に我のりこの姿を置いておくことなど、断じて許せぬからな。

蛆は蝿の子。
子の不始末は親の責でもあると、人間はよく言っておることだし。
ペルドリヌ。
異端の神を崇める、狂信者達の国。
蛆の罪は、蝿の罪。
蝿を放置すれば、蛆虫は増えるばかりだ。 

「セイフォンより遠いが、転移すれば一瞬だ。……この距離で術式移動をすると、到着時にはこやつの手足は一本も残っていないであろうな」

本来、蛆とは手足の無いものだ。
それが自然な姿なのだから。
手足など、蛆虫にはいらぬ。


「……手袋は正解だったな。汚らわしい蛆の肉に、直に触らず済んだ」

さて。
まずは、猟犬共の様子を見に行くとしよう。
与えられた仕事がこなせぬような駄犬なら。

「全員<処分>だな」






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