四竜帝の大陸【青の大陸編】
こやつは異界人であるりこよりも、はるかに頑丈な肉体に恵まれているわけだ。

「……」

蛆虫の分際で。

我のりこが昼食で口に出来たのは、プリンだけだっだのだぞ?
食事することを、楽しんでくれていたのに……異界人のりこは普通の人間共より身体が弱く、体力が無い。
 だからこそ多くの食物を摂取し丈夫になって欲しいと、食には細心の注意を払うようダルフェに命じていたのに……邪魔しおって!

「貴様は凄いな、蛆虫よ。……この我を、ここまで不快にさせるとは。褒めてやろう」

我は微笑んだ。
人間共が望んだように。
それらにふさわしいであろう種類の笑みを作り、顔にのせる。
悪魔や魔王などという、居もしない<役>を我に与えた人間共よ。

その望み、叶えてやろうではないか。

「蛆虫よ、我が思考を読み取れることは知っておるな?」

充血し、濁った目玉が我を見上げ。
前歯を折られた口が、黄色い泡を作り出す。

「触れずに必要な情報を読み取るのは、今の我にとっては造作ないことだが」

昔過ぎ、いつだとはっきり憶えていないが。
ふと、人間という生物の思考回路に興味を持った。
 
「自分がそのような事が出来ると気づいておらぬ我は、とりあえずこうしてみたのだ」

蛆虫が再び絶叫したが、我はかまわず指をさらに奥まで進めた。

「このように、直接触ってな」

記憶を探り、抉り、掻き回す。

「皮膚を使って読み取ったのだ。何故方法を変えたか? 手が汚れてしまうからだ」

訊かれもせぬのに、喋ってしまう。
我の右手を頭部から生やした蛆虫には、質問することなど不可能なのに……。

そのまま腕を掲げ、眼の高さまで持ち上げる。
指先で脳を弄り、閉じた眼を強引に開けさせた。
汚水の塊のような目玉に、我の顔をしっかりと映させるために。
痛覚・聴覚そして視覚を保つ必要がある。

 恐怖をより強く感じさせるには、感覚を鈍らせてはならないのだ。
 

「我を見よ。恐れ恐怖し、生まれてきたことを後悔し絶望に沈め。安心しろ、貴様はまだ死なん。我がうまく‘中身‘を調整しているので、舌を噛み切ろうと死ねんぞ? ゆっくりと……地獄を楽しむが良い」

何か言いたげに、蛆虫の口角が動いたが。
蛆と会話を楽しむ趣味は、我には無いので無視した。
それに。
喋りたいから喋ってるだけであって、返事は無用だ。
我が常より饒舌なのは。
 こうして少しでも感情を吐き出さねば【気】が暴走し、帝都を潰しそうだからか?
もはや、自分でも分析できぬ。

脳髄が煮えたぎり、最近自覚した‘心‘が咆哮を上げ……思考力が鈍る。
まずいな。
我はまだ、この世界を壊すわけにはいかんのだ。

りこと夕焼けを見に行く約束をしたのだ。
失くすわけには、いかない。

“でぇと”が出来なくなってしまうからな。



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