四竜帝の大陸【青の大陸編】
ダルフェさんのエプロン姿は見慣れているので、驚きはしないんだけど……。
彼の左手に大きな魚がぶら下がっている事にびっくりして、出かかっていた涙が止まった。
お魚は生きていて、びちんびちん動いてる。
しかも、私の身長位ありそうな、巨大魚だった。

「おう姫さん、無事で何より……ん? ある意味、無事じゃねえのか? まあ、細かいことはいいって事で。今夜はこの尾頭付きの朱紅魚で、お祝い膳だぞぉ!」

ぶんぶんとお魚を振り回して、ダルフェさんは言った。

「竜族は子がつがいと結ばれた祝いに、この朱紅魚を家族で食うんだ。これは四大陸全域に生息しているんだが、最近じゃめったに獲れない高級魚なんだぜ? 旦那にゃ親はいないし、姫さんの家族も異界だ。俺とハニーが代役ってことで勘弁な。姫さんの両親だって、娘の結婚を祝いたいだろうに……ごめんな」

結婚?
お祝い?
 
「……わ、私とハクちゃんの?」

結婚のお祝い……!

「う、うん。うん!……ダルフェ、ありがっ……ふぇっ」

止まっていた涙が、溢れ出た。
涙腺が壊れちゃったのかと思うくらいの勢いで……自分では制御不可能だった。

結婚。
お祝い。
両親。
家族。

「りこを泣かせたな、ダルフェ! 貴様っ……りこ?」

立ち上がろうとしたハクちゃんの腕を掴み、止めた。

「……だ、だめぇ! ち、ちがうよハクちゃ、ひっぐ……うぅ」

ハクちゃんは床に両膝を付き、大きな手をそっと私の頬に添えて言った。

「りこ、りこよ。ダルフェの何が、りこを泣かせたのだ? 魚が怖かったのか? 耐え切れぬほど腹が空いたのか?」

ハクちゃん。
ハク。
貴方はもう、知ってるはずよ?

「うれし……とっても、嬉しいからよ」

ハクちゃんは金の眼を少し細めて、首を傾げた。

「……嬉しい?」

その動きに合わせて真珠色の髪が揺れた。

ああ、なんて綺麗。

この人はなんて綺麗で……真っ白なんだろう。
そう、思った。

「うん。すごく、嬉しかったから。嬉しい時も涙が出るって、ハクちゃんは知ってるよね?」

私は頬に置かれたハクちゃんの手に、自分の手を重ねた。
2人の金の眼をしっかりと合わせ、言った。

「私は嬉しくて、泣いたの」

真っ白な貴方の心に、このあたたかな気持ちが届きますように。
 
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