四竜帝の大陸【青の大陸編】
ご飯の前に着替えてくればって言ったのに、面倒だからいいって言ってそのままだった。
私のお父さんも面倒くさがりで、お風呂出た後はトランクス1枚で家の中をうろうろしちゃう人だったから、ハクちゃんの格好があまり気にならなかったけど。
(パンツ一丁のお父さんより、ガウンのほうがましだし)

「……もう行っちゃったんだし」

あんな姿で歩いてるのを見られたら、通報されちゃうのかな?
でも、転移なら廊下をあのだらしない(しかも妙に色っぽい。無表情だから抑えられてるけど、あれが男の色気というやつだろうか?)格好も、人目に触れることはないはず。

「へ……平気だよね?」

手遅れだしね、うん。


私はさっきまで使っていたクッションを、急いでソファーに並べなおした。
出産が近いカイユさんを立たせておくなんて、そんなことできない。
ここに横になって、休んでもらわなきゃ!

「ダルフェ! カイユをここに……」

ダルフェさんは頷いて、カイユさんをそっと横たえた。

「ハクちゃんが、竜帝さんを連れて来てくれますから。……ダルフェ、大丈夫?」
「あ、あぁ……」

彼は手の震えもおさまり、顔色もかなり良くなっていた。
でも、私の不安は消えない。
 
「姫さん、ありがとな。旦那が戻ってくるまで俺と……父様と一緒に母様の側にいてやってくれ」

父様?
父様って……ダルフェさんまで、どうして?
よく冗談で自分のことを‘父ちゃん’って、言ってたけれど。
今のは、そんなんじゃないよね?

「わ、私……カイユっ?」

ソファーの前に膝を付いてカイユさんを覗き込んでいた私を、カイユさんは腕を伸ばし引き寄せた。
胸に抱き、髪を優しく撫でてくれながら言った。

「私の可愛いお姫様。そんな不安そうな顔をしないで、母様は大丈夫よ。……さっきから、どうしたの? いつもみたいに母様って、呼んでちょうだい。私、あなたの母様なのよ? 私はお腹のこの子とあなたの、2人の子供の母親なんだもの。私はあなたの母様……母様なの」

混乱したように言うカイユさんをなだめるように、ダルフェさんが長い銀髪を手に取り口付ける。

「出産が近づいて気が昂ぶるのは分かるが、娘を不安にしちゃ駄目だよ? 母親の君が取り乱したら、この子が心配する。この子もまだ幼いんだから……親である俺達が、しっかりしなきゃ」

鮮やかな緑の眼を細め、優しく……優しくカイユさんのお腹を撫でながら言った。
柔らかな笑みなのに。
それを見た私の心は切なく……ううん、痛くなった。

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