四竜帝の大陸【青の大陸編】
カイユさん達はお城に帰ってきて、まず私のところに来てくれた。
これから竜帝さんの所に行って簡単な挨拶と報告をして……正式な『挨拶』は後日、大広間でお披露目会のようなものがあるらしい。

お披露目会。
それを聞いて、竜族にとって新しい一族の誕生はそれだけおめでたいことで……重要視されることなんだと改めて感じた。
子供は一族の宝……子供といえば。
ダルフェさんは赤の竜帝さんの子供……息子だった。
彼女はダルフェさんの事を心配していた。

「あのっ、ダルフェ! 私、赤の竜帝さんに電鏡の間で会ったの。ダルフェのお母様だったなんて、びっくりしちゃった。あれ? うわわぁ~、もしかしてダルフェって王子様ってこと!?」

ダルフェさんはぎょっとしたように後ずさりした。
手をぶんぶんと自分の端整な顔の前で振り振り、言った。

「げげぇっ、母ちゃ……赤の竜帝に会ったのか!? 王子様……ぶぶっ! やめてくれよぉ、がらじゃねぇし。それに竜帝は世襲制じゃないからねぇ。母ちゃんが竜帝だろうが俺は庶民よ、庶民。俺の父親は赤の竜帝の帝都で食堂やってるごく普通の親父なんだぜ?」

明日の午前中に‘お祖母ちゃん’になった赤の竜帝さんに、電鏡の間でジリギエ君を会わせるのだと……ダルフェさんは頬をかきながら言った。
ちょっと照れたようなその仕草は、それを見た私の心をほっこりと温めてくれた。
 
カイユさん達は20分程で帰った。
明日のお茶の時間にゆっくりしていってくれることが決まったので、今夜は書き取りの練習は止めてシフォンケーキを作ることにした。
いつでも作れるように、材料の準備はしていた。
さっき、ダルフェさんが私に教えてくれたのだ。
竜族の子供は長い妊娠期間を経て、ある程度育ってから生まれてくる。
ジリギエ君は厳密に言うなら赤ちゃんではなく、幼生……人間でいえば3才児くらいの知能があり、お乳も飲むけれど大人と同じものも食べられる。
つまり、ジリギエ君はケーキを食べることが出来るのだ。
 
私はダルフェさん作のいつものエプロンをして、竜体のハクちゃんには唐草模様の緑のスカーフをエプロン風に巻いてあげた。
ハクちゃんと私。
初めて、2人でケーキを作った。
竜帝さんとの試作はちょっと失敗しちゃった私達だけど、今回はちゃんと……うまく焼けた。
ハクちゃんが卵白を完璧な状態に泡立ててくれたのが、成功の秘訣だと思う。
ハンドミキサー愛用者の私では、泡立てのパワーが不足していたのでとても助かった。
試作では11本のホイッパーを壊しちゃったハクちゃんだけど、練習の成果が本番にこうして発揮され……彼もとても満足そうだった。
明日のお茶の時間に出すお祝いのふわふわシフォンケーキからは、卵とバニラの甘い香りがした。
部屋に漂う優しい香りに……ほんのちょっとだけ、切なくなった。


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