四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ジリギエ君、姉様ですよ~……ふふっ、これからよろしくね」

すやすや眠るジリギエ君を抱っこしてにやける私の姿にカイユさんは硬かった表情を和らげ、いつもの透明感のある微笑を浮かべてくれた。
ダルフェさんはいつもよりさらに目じりを下げて、なぜか爆笑した。

「やっぱ、すげ~なぁ姫さんは! 心配して、損しちまったなぁ……ぐげべっ!? いててっ……むへへへぇ~っ」

ジリギエが起きてしまうでしょうって、カイユさんに注意され……背中を蹴られたダルフェさんは、とっても嬉しそうだった。
カイユさん……帝都ではセイフォンの時に着てたメイド服じゃなく、アオザイのような衣装だから蹴りやすくなったのだろうか?

「あぁ、久々の蹴り……俺的にはもっと激しく連打して欲しいっ」

ひえぇ~、嬉しそうを通り越して恍惚としている気が……ちょっと不気味ですよ、ダルフェさん。
整った容姿をさらに引き立てる青い騎士服を着て、見惚れるような姿をしていても。
やっぱりダルフェさんは、ダルフェさんよね~。

「ダルフェ、なにを心配したの?」

ジリギエ君をカイユさんの腕へとかえしてから、訊いてみた。
私とダルフェさんの距離は、かなりぎりぎりな2ミテをずっとキープしている。
ダルフェさんにも竜帝さんと同じく‘ハクちゃん2ミテルール’が適用されることになったから。

カイユさんは出産し、妊娠期間が終わった。
だからダルフェさんは近いうちに【雄】の成竜に戻る。
蜜月期中のハクちゃんにとって本来は排除対象になってしまうんだけれど、ハクちゃんは2ミテ宣言をしただけでダルフェさんを受け入れてくれた。

「ん~、心配ってのは……まぁその。竜族の赤ん坊は人型じゃないからねぇ」

なるほど!
ジリギエ君が……赤ちゃんが<人間>の姿をしてないから、私がもっと驚くかと思って……。
私は赤ちゃんが人型じゃなくても、別に驚かない……驚けない。
竜族っていうくらいだから、本来は竜体がメインな種族なはずだし。
小竜の旦那様を持つ私だもの、確立(?)は半々かなぁって漠然と考えていた。

ちょっと意外だったのはハクちゃんみたいな‘いかにも竜です’って小竜じゃなくて、爬虫類っぽいちびちゃん竜だったことで……。
私はハクちゃんに視線を向けた。
初めて見た竜族の赤ちゃんに大興奮の私とは違い、ハクちゃんは竜体で大人しく池の淵に座っていた。

会話に入ってくる様子もなく、ただ静かに。
私達を透明感の無い金の眼で、眺めていた。
その眼からは彼がジリギエ君を見て何を思い……考えてるのか、私には読み取れなかった。

もしも。
私と同じように、未来の自分達の姿をカイユさん達に重ねてるんだったらと思うと……一瞬だけ、お腹の中がきゅっと痛んだ。



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