四竜帝の大陸【青の大陸編】
ついさっきまでは、いつもの貴方だった。
私の膝でご機嫌そうに、尾をゆらゆらしてたのに。

私の頭と心は貴方に粉々に砕かれて。
まるで。
潰れてしまった生卵みたい。

シフォンケーキの試作の時に、貴方が握り潰した卵みたいに。
外側は粉々で、中身はぐちゃぐちゃのどろどろ。

もう、駄目。
駄目よ、私。

私はこんな世界、来たくなかった。
でも、貴方に会えた。

貴方がいてくれたから。

だから、耐えられた。

貴方が私を捨てるなら。

1人じゃ寂しくて、辛くて。
耐えられないから。

ハクが私を捨てるんだったら。

私も。
私も、<私>を捨ててしまおう。

いらない。
こんな私、この世界にいたってしょうがないもの。

「ハ……ク。わた……しを」

約束したよね?
私が死んだら、この身体を食べてくれるって。

私。
貴方から離れたくないの。

もう、これしか……ないのかな?

「私を……こ……きゃっ!?」

ハクの手が私の手を耳からはずし、そのまま私を乱暴に引き倒して頭の上で両手首を片手で押さえ込んだ。

「ハ……?」

それは私にとってあまりに衝撃的で……強い力で掴まれた手首の痛みも、テラコッタの床の硬さも感じなかった。
触れ合うほど側にある冷たい美貌から顔をそむけようとしたら、大きな手で顎を掴まれた。
私へと流れ落ちてきた真珠色の長い髪が、私の視界からハク以外を奪った。

「聞け。そして我を見ろ」

肌に触れる吐息は、真冬の温度。
私を凍えさせ、動きを奪う。

見下ろす金の眼は、真夏の太陽。
私を熔かし、焼き尽くす。

「ハ……ク?」

手首を押さえつけていた手が……顎を掴んでいた手も、私の身体をなぞるようにして移動した。
両手を私の首元からゆっくりと這わせ、大きな手で優しく優しく……私のお腹を撫でた。
ハクは顔を寄せ、服の上からそっと口付けた。

「貴女は我のりこだ」

まるで、そこに我が子がいるかのように。
居るはずの無い赤ちゃんを慈しむかのように。
何度も何度も、口付けた。

「我だけの、りこだ」

我のりこ? 
ハク。
ハク!
 
ああ、この人は。
まだ私を……愛してくれている?

「ハ……ク、ハク! 私っ」
 
私の言葉を遮ったのは。
愛しい人の、艶やかな声だった。


「我はこれより、この世界の男を殺し尽くす」


な……に?
今、なんて?

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