四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ダルフェ。ジリギエ君は?」

居間に戻って来た姫さんの顔は、すっかり元通りだった。
涙の跡どころか、泣きすぎて腫れていた目元も……。
再生能力の件は、旦那はまだ話していないようだった。
とっとと言っちまえばいいのに。
さて、旦那はどうする気なんだかなぁ。
 
「ジリ? ああ、舅殿が来て見てくれてる。なぁ姫さん、明後日は勉強会の無い日だろ? 街に行こう。俺らも買いたいものがあるしねぇ。……ハニー、もう城から出てもいい?」

セレスティスが言うには、2日程前から間者が見当たらないらしい。
旦那がペルドリヌに残してきた‘脅し’が効いてきたのか、それとも……さぁて、どっちなんだかねぇ。

「そうね……いいわよ。トリィ様、雪が降り出す前に帝都をいろいろ見て回りましょう。貴女を連れて行きたいお店が、私には何軒かあるんです。ふふっ……楽しみにしていて下さい」
「わぁ! あ、でもカイユはお産後だし、ゆっくり休んでいたほうがいいんじゃない?」

旦那の隣に腰を下ろした姫さんは、カイユの袖を右手でそっと引きながら言った。
この小さな手が手に入れたものは、とてつもなくでかい。
あのね、姫さん。
あんたが思っている以上にそれは大きく、とんでもなく重いんだ。

「お気遣いありがとうございます。私はそこの役立たずほどではありませんが、かなり丈夫な方ですから……さあ、これでいいわ」

ハニーが優しく微笑みながら、温室から採って来た四季咲きの白いナナヌの花を姫さんの髪にさした。
仕上がりに満足げにうなずいて……あれは<母親>の表情だ。
本当の子であるジリギエを見る眼と、変わらない。
ブランジェーヌが俺を見る眼と同じ……。

アリーリアの壊れちまった【心】は、もう治らないだろう。
母親を無惨に殺され、夫である俺は<色持ち>でいつ死ぬかも定かじゃない。
明日にはぽっくり死ぬかもしれないし、うまくいけば後100年位は生きられるかもしれない。
おまけに双子で‘当たり前’な子供は……そんな君の前で、俺はっ。
どんなに、辛かっただろう。

俺が君を、こんなにも追い詰めたのか?

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