四竜帝の大陸【青の大陸編】
本日の午前中。

我は試験を受けているりこの正面に座り、書き取りをする姿を……真剣な顔を堪能していた。
当初は竜体で同行していた我だが、最近は人型の日も多い。 
20分程すると、ヒンデリンが現れた。
シスリアとりこに侘びをいれ、<青>が我を呼んでいることを伝えてすぐに退室した。

<青>は観察官からの知らせを受け、舞踏会の準備で忙しいようだった。
南棟にはこの数日、顔を出していない。
我はりこを堪能中なので行きたくはなかった。

だが。

「いってらっしゃい、ハクちゃん。竜帝さんによろしくね」

と、りこが笑んで言うので……思わず頷いてしまった。
離れたくない、共に行って欲しいという我の‘お願い’は即、りこに却下された。
書き取り試験の最中で‘とっても忙しい’ので、りこは我と同行してくれなかった。

そういえば。
暇なのは我だけだと、以前ダルフェが言っておったな……我はりこと出会ってから、暇だと感じたことはないのだが。
まあ、確かにダルフェは忙しそうだが……いろいろと。

他人から見て暇人である我は、執務室に転移した。
<青>は我に、<赤>と決めた移動日程を提示してきた。

「これでは遅い。ラパンの花が咲いたらこの大陸を出る」
 
我は<青>にそう言った。
 
<青>の決めたこれでは、間に合わん可能性が高かった。
りこはベルトジェンガが死ぬ前に、我と会わせたいらしいのだ。
我は会わんでもよいのだが、りこが会った方が良いと言うので会う事にした。
渡された数枚の書類を<青>の手に戻しつつ、その顔を見ると。

<青>はまた、唇を噛んでいた。
我を見上げる顔に右手を伸ばし、指で唇を食む歯をはずした。

「噛むな。出血しようが、我はもう舐めてやれん」
 
口は無闇に使ってはいかんのだ。
うむ、我の‘お口’はりこ専用なのだ。

そう言うと<青>は我の手を払い、その場にしゃがみこんだ。
青い髪が床に広がる様は、生まれたての小さな海のようだった。

他の者の眼が無いとはいえ、<青の竜帝>が床に丸くなるなど。
<黒>が見れば竜帝にあるまじき姿だと怒ったかもしれぬが、これは幼い頃から過去の竜帝達と少々違っておったので我は全く気にならなかった。

我は<青>の唇の傷のほうが気になった。
竜帝は自分自身でつけた傷は治りが遅い。
これはりこが気に入っている個体だ。
りこにとっては『女神のように美しく、綺麗で優しい竜帝さん』なのだ。
顔に傷をつけたくない。

ふと、脳裏に<青>が幼い頃の情景が浮かんだ。
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