四竜帝の大陸【青の大陸編】
今夜の鯰鍋はトマトベースで、数種のきのことかぶのような根野菜がたっぷり入っている。
ナマリーナを飼っている私だけど、鯰を食べることに抵抗はほとんどなかった。
でも、ナマリーナは食べれない……とても、無理。
小学生の時に学校で飼われていた真っ白な鶏と、スーパーの精肉コーナーで【肉】になって並んでいる鶏とがまったく別物に感じていたあの感覚と似ているかもしれない。
ナマリーナが食用になる種類の鯰だと分かっているのに、鍋の鯰さんとは私の中では‘違う’から。
 
「第一これは祭りであって、競技会じゃねぇんだから。遊びっつうか、楽しむもんだからねぇ。心の狭い旦那にしちゃ珍しくその気になってんだから、姫さんも思いっきり楽しむべきだと‘父ちゃん’は思います。な、ジリもそう思うだろう?」

ダルフェさんがそう言ってウインクすると、それを見たジリ君も緑の眼をぱちぱちと瞬かせた。
最近のジリ君はこうして大人のまねを一生懸命することが多くなり、とってもかわゆいのです。
 
「お祭り……うん! そ、そうだね」

そ、そうよ。 
ハクちゃんが一緒なんだもの。
ハクちゃんはとっても長く生きてるんだから……亀の甲より年の功!
きっと、なんとかなるに違いない。
カイユさんとダルフェさんの言葉に、ちょっと……かなり安心した私だったけれど。
私を安心させる一因となった旦那様から、爆弾が投下された。


「おい。皆、誰も我に確認せぬので自分から言うが」

はい?

「我は踊れんぞ?」

え?

私の隣の椅子に座っているハクちゃんに、全員の眼が集中した。
大人達のまねをして、ジリ君も数秒遅れでハクちゃんを見た。

「えぇ~っ!? ハ・ハ……ハクちゃん、踊れないのぉおお!?」

サラダに入っていた小菊をフォークに刺して、ドレッシングの容器にずぼっと突っ込みながらハクちゃんは言った。

「ああ、踊れん。見たことはあるが、記憶しようと思ったことが無いのでな。まあ、なんとかなるのではないか? そんな事より……ほら、りこよ。あ~んだ、あ~ん」

と、自信満々で暢気君な発言をして下さった。
ハクちゃん。
ドレッシングはかけるものであって、チーズフォンデュみたいにしちゃ駄目なのよ!?

いや、重要なのはドレッシングの使用方法じゃなくてっ。

踊れないのに、なに余裕ぶっこいてんの!?
なんとかなるはずないでしょうがっ!!
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