四竜帝の大陸【青の大陸編】
私がカイユさんに教わってる時に、なんで言わなかったのよぉ~!

「そ、そんなぁ~。ど、どうしようっカイ……ぶごっ!?」

衝撃の事実に思わずぱかっと開けてしまった口に、ハクちゃんはドレッシングがしたたる小菊をさっと投入した。
ビネガーが強めのドレッシングのせいで、私は少しむせてしまう。
そんな私の背中を、カイユさんが素早く背後に来てさすってくれた。

「りりりりこっ、すまぬっ! 大丈夫か!?」

ハクちゃんがあたふたと差し出したグラスを、私が受け取ったのを確認したカイユさんは……。

「ヴェルヴァイド様! まったく貴方って人は、何故いつまでたってもこうなんですか!? いい加減になさって! ああ……なんてことっ。くっ……私としたことが! こんな方をあてにするなんて、私が間違ってたわっ! さっさと陛下に相談してこい、役立たずっ!」

カイユさんはすらりとした長い足で、ダルフェさんの後頭部に一発入れた。

「へぐっ!? 了解!!」

ダルフェさんは頭を揺らしながら、竜帝さんの執務室に駆けていった。
ふと、視線を食卓へ移すと……。

「ジ……ジリ君!?」

むぎゅむぎゅごっくん、むぎゅむぎゅっ。
食卓の上のジリ君はちょっと固めのライ麦パンと唐揚げを、なんと両手に2個ずつ持って食べていた。
席に戻ったカイユさんは、パンと唐揚げをがつがつとむさぼるジリ君を見て、 ため息をつきながら言った。

「お行儀が悪いわよ、ジリ。姉様の為にも、貴方は立派な紳士にならなくては……。ヴェルヴァイド様みたいな大人には、なりたくないでしょう?」

そう言われたジリ君は、さっとパンと唐揚げから手を離した。
その様子に、私は軽いショックを受けた。
まっ……まずいよ、ハクちゃん!
ジリ君の中で‘あんな大人には、なりたくない‘って思われてるのかもよ!? 

「トリィ様。今夜は早く休んで、明日に備えましょう。……カイユにおまかせ下さい。必ずこのしょうもない男を、使えるように仕込んでみせますわっ! 覚悟なさって、ヴェルヴァイド様」

カイユさんの水色の瞳が、ハクちゃんを睨んだ。
睨まれた本人は、銀のスプーンでスープをぐるぐるかき回しながら宣戦布告(?)したカイユさんに言った。

「覚悟とな? したことが無いので、覚悟の仕方がよく分からん」

ハクちゃんの言葉を聞いたカイユさんの口元が、ひきつったようにぴくぴくと動いた。

こうしてハクちゃんに、カイユさんから地獄の猛特訓が宣告された。 
幸いにもお祭りのためにシスリアさんの授業は、お祭り当日と翌日の2日間は休講が決まっていた。
明日は朝食を1時間早くとって、ダンスを練習することになった。


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