四竜帝の大陸【青の大陸編】
柄から先端まで丹念に汚れを取り去り、俺の母親から送られた朱塗りの鞘にそれをしまった。
ハニーには、返り血の一つも付いてはいなかった。

赤いそれが噴出す前に、ちゃんと距離をとる。
それを計算した斬り方ができる。

血の臭いを怖がる母親……ミルミラの為に。

「ハニー。残りの2人はまだ殺しちゃだめだ。俺がもらっていい?」

それができる技量を持った竜騎士に、君はなった。
「そうね。私は手加減が苦手だから、口を割らせる前に殺しちゃうわね。……ダルフェにまかせる」

「了解、団長」

片眼をつぶって礼を言った俺に向けられた顔には。

「ふふっ……それ、最近ジリがすごく上手にまねするのよ?」

帝都を出てから、初めての笑顔。
セイフォンで<娘>を見つけ。
息子を産んでから。
カイユの笑顔が変わった。
いや、舅殿に言わせると‘戻った’が正しいらしいが。

「さっさと済ませるよ。子供達が、帝都で帰りを待ってるもんな」

透明感のある澄んだ……綺麗なだけじゃない、眩しい笑顔。
その微笑みを向けられた俺の胸は、まるで初めて会った時のように高鳴る。
君に初めて触れた時のように、温かいもので満ちていく。

「ジリには舅殿が付いてるから安心だけど、困ったチャンな婿殿といる俺達の娘が心配だもんなぁ~」
「そうね、まったく……あの方には新しい‘反省部屋’をプレゼントしたいくらいだわ」

君がもっと笑ってくれるように。
俺は俺にできる事をする。




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