四竜帝の大陸【青の大陸編】
硝子の窓に石を投げつければ、割れる。
強度を上回る力をぶつければ、モノは壊れる。
それと同じだ。

<ヴェルヴァイド>に四竜帝が勝てないのと同じ。
単純明快な世界の理。

より<力>が強いものが、勝つ。

「安心しろ、あんたは殺さない。……まだな」

剣を抜く必要は無い。
左足で、目の前の青白い霧に回し蹴りを一発。 
空気が微かに揺れるような独特な振動と、小さな破裂音。

跳ね返った力で、術士が吹っ飛んだ。
檻が消えると同時に、俺の顔面に剣の切っ先。

「あのねぇ、あんたは行動が遅せぇんだよ。爺さんは直ぐ殺れって言ってたでしょうに……こんな使えないのと組まされて、爺さんは災難だったなぁ」

武人はいらない。
必要なのは<星持ち>の術士だけ。
指で挟んだ剣先を折って、武人の眉間に入れると同時に腹を右足で蹴った。

雪の壁に2箇所に分かれて、男の身体が埋まった。
こいつはもう要らない。
だから、右足。

「爺さん、大丈夫? 腰を打ったのかい?」

俺はハンカチを内ポケットから取り出し、ブーツを拭きつつ術士に声をかけた。
術の‘跳ね返り’に合い、濡れた石畳にうずくまって呻く老人は赤紫の毛玉のように丸くなっていた。
 死んではいない。
意識もあるし、たいした怪我もしてないはずだ。
強い‘跳ね返り’にならないように、加減して【檻】を壊したからな。
うんうん。
我ながら器用だな~って、感心しちまうねぇ!

「俺はあんたに訊きたいことがあるんだよ、術士の爺さん。雇い主……それと」

たぶん、ホークエの刺客だな。
セイフォンの国土をぶん取ってのし上ったあそこは、今回の後見人の件で大慌てだ。
せっかく大きな戦をしかけようって、この数年間準備してたってのになぁ~。

「<珠狩り>について聞きたいことがある……あんたは<導師>を知ってるかい?」

本命は、こっち。
でも、こいつは俺の髪を見ても驚かなかった。
事情通とは、思えない。
望み薄な……気がするなぁ。

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