四竜帝の大陸【青の大陸編】
鍵をはずし、重厚な造りの扉を開けた。

「殿下方、1時間半程こちらで昼食休憩をとって下さい。閣下、手を貸しましょうか?」
「いえ、セシーは私が連れて行きます。ミー・メイ、先に降りてくれるかい? 足元に気をつけて降りるんだ」 

ダルド殿下は術士の娘に手を貸してやっていた。
女に対するそういった態度は、帝都で待つ陛下を俺に思い起こさせた。

閣下を自分の外套に包み腕に抱いて、ゆっくりと馬車から出てきたその姿は人目をひいた。
数人の人間が足を止め、美女を腕に抱く青年に無遠慮な視線を向けていた。

均整のとれた体躯に整った甘い顔立ち。
澄んだ青い眼、肩にかかる柔らかな茶の髪。
中央にスリットが入ったベルベットのチュニックは品の良い濃緑色。
アイボリーのスラックスに、黒い皮のブーツ。

閣下に掛けられた殿下の外套の襟と裾は、銀のファーで飾られていた。
この坊ちゃんは‘本物の王子様’だ。

普通の人間の女なら、小竜よりもこっちのほうに恋心を抱きそうなんだがなぁ。
姫さんは離宮で暮らしている間もセイフォンの若い娘の憧れの的である‘王子様’には興味が無いようだった。

俺にも……人間の女にも受けが良いこの俺にも、そういった感情は全く持たなかった。
あの子の眼は、心は。
いつだって白い竜に向いていた。

自分の膝に座った小竜を優しく撫でるその眼にあったのは、強い恋情。
この人間の娘は、自分より遥かに小さい異種族の小竜に恋をしているのだと俺にも分かった。

異世界から余興の失敗なんかで連れてこられたあの子が心を、精神を保っていられたのは旦那に恋をしていたからだろう。

カイユも俺も、魔女閣下も姫さんの気持ちに気がついていたのに旦那ときたら……あんなに鈍い人だとは思わなかった。
まあ、感情ってもんに縁遠かった人だからなぁ。
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