四竜帝の大陸【青の大陸編】
愛玩動物扱いなんて姫さんに俺が言ったのは、あの子自身にも自分の気持ちをはっきり認識して欲しかったからだった。

姫さん、支店までは雌と雄……自分と旦那が女と男だって事をあんまり意識して無い気がして、こっちが気を揉んじまったもんなぁ。

数ヶ月前の事を苦笑と共に思い出しつつ。
空になった馬車の室内に、腰から外した細剣を置き施錠した。
店内に刃物の持ち込みは遠慮して欲しいと、従業員に言われたからだ。

「ダルフェ殿、先ほどの者達は……セシー?」

俺に質問しようとした殿下の口元は、閣下の人差し指が当てられていた。

「ダルフェ殿、ごめんなさいね。殿下、それは貴方が知る必要の無い事です」

セシー・ミリ・グウィデスは姫さんが紅茶の様だと言った赤茶の眼を細め、甥にあたる皇太子の髪を撫でた。

「セイフォンの皇太子である貴方は、全てを知る必要は無いのです」

視界の隅で。
俯いたままずっと無言で殿下から三歩程離れた位置にいた術士の娘が、小刻みに震えている手をケープでそっと隠した。

隠したいなら、隠せば良い。
偽りたいなら、偽れば良い。

お前等は帝都で<監視者>にその頭の中を、想いを全て暴かれるのだから。
知らなければ。

覗かれても、見られても。
晒されても……。

「閣下の言う通りだよ、殿下。あんたは知り過ぎないほうがいいんだ。世界のためにもね」
「……失礼しました、ダルフェ殿」

納得はしていないようだったが、不満を口にするにはこの坊ちゃんは賢すぎた。

「いや、いいさ」

セイフォンの皇太子君。
知らないほうが幸せなことがあるのだと、俺は餓鬼の時に思いしったんだぜ? 


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