四竜帝の大陸【青の大陸編】
つまり。
危険な状態の雄を制御するのは、雌の役割なのだ。 
竜の雌はそれを重々承知しているため、暴走しがちな雄を上手く扱う術に長けている。

だが、りこは人間だ。
しかも異界人。
竜の性質も生態も知らぬ。

りこに我を制御するのは荷が重い。
我は【普通】の竜ではないのだから。

それに……。
竜と人間の間には子が出来ない。
竜帝共が危惧する我の蜜月期は、りこが死ぬまで続くのだ。 

過去、数頭の竜が人間のつがいを得たが……結末は不幸なものが多い。
子を成すことが出来なけい雄竜は、危険な状態のまま相手の女の奴隷になり下がる。
人間の雌は思いのままに操れる竜を得たことが分かると、大抵はろくでもないことに雄竜を利用する。
そうでない場合もあるが……悲惨で凄惨な事態になる確立が高い。

女の望みのままに富を他人から奪う。
女の希望を叶えようと邪魔者を全て殺す。

最も凄惨なのは雄竜が狂うことだ。

つがいとの子が得られないことに悲嘆し、苛立ち、壊れてしまう。
壊れた雄竜は女を喰い殺し、暴れ狂う。

竜は強い種族だ。
普通の人間達には、なす術が無い。

【蛇竜】となった竜を始末するのは竜帝の仕事だ。
竜帝が【蛇竜】となると我が始末する。

竜帝より強い竜は、世界に我のみ。
過去に1度だけ、竜帝を始末したことがある。
奴はつがいの女を喰らい、同族を殺し……自分の大陸の半分を焦土と変えた。
人間をつがいにした竜の悲劇を、りこには知られたく無い。
 
人間共が我のつがいになったりこを利用しようと群がってくることは、予想していた。
しかし、りこに注意を促すことすらしなかった。

りこはこの世界が綺麗だと……美しいと言っていた。
空を見ては眼を細め、庭を散歩しては褒め称えた。
離宮を本で見た伝説の神殿みたいだと言い、探検しようと笑った。
魔女が揃えた衣類を眺め、ドレスばかりで困ると苦笑していた。
ダルフェの作った食事に感激し、奴に料理を教えてもらいたいと願い出て……。
 
‘おとぎの国にきたみたい’

害意の無い、暖かく平和な世界。
我はりこをこの世界に縛り付けるために<おとぎの国>を用意したかった。

存在するはずの無い、おとぎの国を。
我のりこに都合のよいモノだけで作った、<虚構の世界>を。

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