四竜帝の大陸【青の大陸編】
涙目の女神様に、ダルフェさんが溜め息をつきつつ言った。

「ちょい待ち、です陛下。じゃれてる場合じゃないっすよ?」
「じゃれてねぇっ! 俺様はいま、このじじいに虐待されてたんだっ!」
「陛下、顔、顔! <青の竜帝>じゃなく餓鬼に戻ってますよ? ……ん!?」
 
ダルフェさんは<赤の竜帝>さんの鱗と同じ真っ赤な髪を持つ頭を、ぼりぼりとかいた。

「うへぇ、クッキーのカスかよ。ぎゃあっ!? 食いかけの飴玉までっ……ジリの奴、人の頭で菓子食いやがって」

クッキー……そういえばジリ君って、ダルフェさんの頭部をマイルームにしてるかも。
こないだはダルフェさんの髪の中に、庭で見つけた松ぼっくりをしまってたし。

「まったく。陛下は旦那がいると、途端にお子様になっちまうねぇ~。困ったもんだ……術士のお嬢ちゃん、見なかったことにしてね? でないとお兄さん、セイフォンにいるあんたの父上様を解体しちゃうからねぇ~……くくっ」

ダ、ダルフェさんったら、そんなきつい冗談……冗談だよね!?

「はっ……はいっ!」
「よし。良いお返事だ」

にっこりと笑うダルフェさんに、黒い尻尾が見えた気がした。

「で、どうします陛下。ほら、見てみなさいな。舅殿、笑顔満開でご登場ですよ?」

ダルフェさんは背にはダルド殿下を、顔は庭に向けていた。
緑の瞳と青い瞳。
2人の視線の先にはセレスティスさんがいた。
 
セレスティスさんはダルフェさんの視線に気がついたらしく、笑顔のまま右手を振った。
それを見たダルフェさんの手が、答えるかのように動いた。

「ちっ……ダルフェ、頼めるか?」 
 
でもそれは、セレスティスさんに振りかえされるためではなく。

「お優しい<青の竜帝>陛下に舅殿を‘上手に‘半殺しにしろってのは、少々酷ですからねぇ」
「……すまない、ダルフェ」

白い手袋をしたダルフェさんの右手は、剣の柄に添えられていた。
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