四竜帝の大陸【青の大陸編】
ひよこのようなほわほわした淡い黄色の髪に、ファンシーなエプロンをした巨漢の姿は滑稽を通り越して不気味だった。
胸元に輝く黄色いひよこのアップリケは、親父の店『ひよこ亭』のトレードマーク。

可愛いもの好きの俺の父親エルゲリストは、何故か特にひよこが好きだ。
このエプロン、きっと父ちゃんとペアだな。

「……それ、多分うちの母ちゃんが作ったんですよ」 
「赤の陛下が!? うおおぉっ~、汚れる前に聞いて良かった! よし、これは家宝にしよう!!」

巨漢おっさんプロンシェンは独身時代に、前陛下の命を受けて赤の大陸に渡った。
その時に俺の親父と知り合い、意気投合。
今でも頻繁に手紙のやりとりをする仲だ。

息子の俺から見てもちょっと変わっている親父はひよこ頭のこのおっさんをいたく気に入り、<プーさん>と<エッ君>と愛称で呼び合うほど仲が良い。

プーさんとエッ君……。 
ひよこ好きのエッ君は、プーさんのほわほわひよこ頭が大好きなんだそうだ。
 
「すまんな、ダルフェ。心配してくれたんだろう? 安心しろ、俺等はあいつにぼこられるのに慣れてるが、ぼこられないように危険を避けることだって出来るんだ。じゃなきゃ、とっくの昔にセレスティスに殺られてる」

二ングブックが皿を持ったまま立ち上がり、ウッドデッキの柵にもたれていた俺に近寄ってきて謝罪を口にした。

最年長の青の竜騎士である二ングブックはこの数年で、顎の辺りで切りそろえた暗褐色の髪に白髪が目立つようになっていた。

鉛色の瞳を持つ面長の顔を飾っているのは、銀縁の伊達眼鏡。
一見すると品の良い紳士。

が。

なぜか箸でパスタを食っているし、しかもその手にある皿は洗面器みたいなんじゃなく。
本物の洗面器だった。
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