四竜帝の大陸【青の大陸編】
『だが、旦那はもっと餓鬼なんだよ』

ダルフェさんは真っ赤な髪をかき上げて、目を細めた。

『だんな。ハクちゃん? あの子、身体が小さい。竜の子供ですね?』

私の言葉に彼は深いため息を吐いてから、言った。

『旦那は世界の始まりから存在していると【創世神話】でも語られている。とんでもない爺さんというか、爺さんを超えてるっつうか』

へっ?

『旦那の事で姫さんには言わなきゃ……知ってもらわなきゃならない事は、山ほどあるんだが。取りあえず緊急事項だけな』

ちょっ、ちょっと待って!
ハクちゃんって……!

『ダ、ダルフェ! あっ、あの』

ちょん。

ダルフェさんの長い指が私の唇を軽くつついた。
うおっ? 
なにするんですか!?

『まぁ、俺の話を聞きなって。質疑応答の時間は後な。時間が無いんだ』
『うっぅ、はい』

笑顔だけど、眼が怖い。
言うことをきいたほうがいい気がする……。

『事実を簡潔に言う』
『はい』 
『さっきの素っ裸の変質者は、旦那だ』
『……え?』

ハクちゃん?
ハクちゃんっ!?

『竜族は人型にもなる。と、いうか人間と共生している現代社会では人型でいるのが普通だ。旦那みたいに竜体で過ごす者はほとんどいないな』

な……! 
なにそれぇええっ!?

『ハニーは旦那に衣類を持って行った。……鍵のかかっていた奥の衣装室には、旦那の為に用意された服がわんさかある。先々代のセイフォン王は旦那に貢ぐのが生きがいみたいな女王だったしな。豪華絢爛、すごいもんだ。よその国だってそうだぜ? 各国は旦那の為に【竜宮】を建て、宝石・衣類・庭園……なんだって揃えて滞在を待っている。これは<監視者>を恐れているからだけじゃない。人間の女……男も旦那の寵を望む者が多い』

女王?
み……貢ぐ? 
寵?

『あの、単語、よく理解が。知らない単語いっぱいです』
『ま、今はざっとでいいんで。つまりだ』

ざっとじゃ困ります! 
そんな適当な!

『旦那は人型も持っている。俺みたいにな』

人型……。
ダルフェさんみたいな‘大人の男の人’ってこと?

『つまり、姫さんの‘夫‘になれるってことだ』

夫?

『お……おっと? 夫!』
『だからもう、愛玩動物扱いはやめてくれ。旦那が可哀想だ』

 

愛玩動物扱い?



『わ、私。でもっ』

知らなかった。
ハクちゃんが人型になるなんて!
だって、だって。

『旦那は、それでもいいと言ってたんだ』

え?

『姫さんが望むなら、愛玩動物でいいと。側に置いてもらえるなら、このままでいいと』

 
ハクちゃんが、そんなこと……。
私は。
私は?
私はっ!

『旦那は姫さんの為なら、自分を貶める事も厭わない。あの人をどうしたいんだ、どうなりたいんだ? 異界の人間よ』

ダルフェさんの顔から、笑みが消えた。
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