四竜帝の大陸【青の大陸編】
握っていたカイユさんの指から、ゆっくりとその手を離した。
カイユさんはうなずき、竜帝さんから刀を返してもらうと私へと視線を移して言った。

「トリィ様、私はこれで失礼します。陛下もこれからは真に貴女を守ってくださいます。陛下が【約束】してくださいましたから、この場にいる誰も……誰も貴女を傷つけることは出来ません」

小さな子供にするように、私の頭を撫でながら言うカイユさんはとっても嬉しそうだった。
 
「これで、大丈夫。何があっても、貴女が何をしても。陛下は貴女を……あぁ、これで安心して私は……」

細められた目には、うっすらと涙が……。
私はあわてた。

「カイユ、どうしたの!? ここには私を傷つける人なんかいないのよ?」

カイユさんは心が不安定なのに。
今日はお父さんとお母さんのことで、辛い思いをしたから……!

「私はいつだって、大丈夫! 皆もハクちゃんもいてくれるんだもの……だから、安心していいんだよ? カイユはジリ君をお迎えに行ってあげて……母様、私は大丈夫」

大丈夫と言いながら。
私は不安でいっぱいだった。

カイユさんが。
母様が。

いつの日か。
私の前から……。

「母様、私は大丈夫! ……大丈夫」

この『大丈夫』は自分に言ったものだった。
長命種である竜族、そしてとっても強いカイユさんがいなくなるなんてことは無いはず。

私のほうが先に寿命がくる。
私が置いていかれることなんて、無いはずなのに。
カイユさんの言葉が、頭の中で何度も浮かぶ。

ーー何時の日か。多くの者を屠ってきた私も強い者に負け、討たれる時が来るでしょう。

そんなの、だめ。
絶対、いや。

「……大丈夫」

ワタシ ノ 母サマ。 
ワタシ ノ 母サマ ヲ イツカ ダレカ ガ?
ユルサナイ。
ゼッタイニ ユルサナイ!

「大丈夫、大丈夫」

この身体の中で、泣き叫ぶ怪物にも言い聞かせるように。
何度もその言葉を繰り返した。
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