四竜帝の大陸【青の大陸編】
「あの<監視者>が、<ヴェルヴァイド>が! あの方が貴女に自由に触れたいのに触れられず苦悩して、小さな竜の姿で幼子のようにふるまって……ふふっ。あの方らしからぬ姿が日々見られて、私は大満足でした。もっと、もっと貴女に恋焦がれ、理性と本能の狭間で苦しめばいいと思いましたわ!」

自嘲するかのような笑みは、セシーさんに似合わなかった。

「セシーさんは」

膝で握られたその手は、『将軍閣下』の手とは思えないほど綺麗な手で。
セイフォンでもここでも。
彼女の爪は可愛らしい桃色に塗られていた。
はじめてみた時に、意外な色だと感じたことを思い出した。

「セシーさんはハクを、<監視者>を憎んでいたの?」

私の言葉に、セシーさんは首をふった。

「いいえ。そうではなく……逆ですわ」

逆?
それって……。

「私が<監視者>が人間と関係を持てるのだと知っていたのは、受け継いだ知識によるものだけでなく……その場にいた【記憶】があるからです」
「その場って……い……た?」

それって、まさか!?
立ち上がっていた私の身体から力が抜け、すとんとソファーに吸い込まれた。

分かっているつもりだった。
ハクは『人間の女性の扱い方』を知っているって、カイユさんもはっきり言ってた。 
 
「私の中の<魔女>はあの方を」

それが普通で当たり前のことだって、割り切ったつもりだったのに。
つもりだっただけだって、思い知った。

「<ヴェルヴァイド>を」

未来のハクだけじゃなく。
過去のヴェルヴァイドも。

独り占めしたいなんて。

なんて無茶苦茶で、身勝手な私。

「あの方を、愛していたのです」

ハクちゃん。
ハク。
 
私のこの醜い嫉妬心も。
貴方はその小さな白い手で、そっと包んでくれますか?
 
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