四竜帝の大陸【青の大陸編】
「セシー。誤解されるような言い方はよせ。あのな、おちび。ヴェルには世間で言うような『恋人』なんかいたことねぇよ。そもそもあの腐れじじいの頭の中には、恋人とっていう枠が無かったっつーか……肉体かんけ……じゃなくって、え~っと、つまりだなっその、あの、あああああい……愛人? いや、そうじゃなくて、いわゆるヒモ? ヒモ、うん、じじいはヒモだっ!」

竜帝さんは青い目を天井に向け、左右に忙しなく動かしながら言った。
言いながら小さな手をぎゅっと握り、自分の膝をぽこぽこ叩いていた。
そのなんとも言えぬ愛嬌のある姿に、古い床板のようにみしみしと音を立てていた私の心が落ち着きを取り戻す。

「あのじじいは、魔女とは絶対にしない。本人がそう言ってんだぜ? 嘘をつくなんて高尚なこと、基本的にはヴェルにできねぇし……だから周りがもめるっつーか、被害を受けるっつーか」 
「じゃあ、先代の魔女だった巫女王っていう人は……」

私がセシーさんに顔を向けると、華やかで妖艶な美貌には苦笑が。

「ええ、お察しの通りです。彼女は<監視者>の寵を得ようとあらゆる手を尽くしましたが、一度としてヴェルヴァイド様は彼女とは関係を持ちませんでした。……サーテメルンでは<監視者>と交われば不老や長寿を得られるという、他国ではすっかり廃れた古い言い伝えが残っていたんです。それが彼女を苦しめ、追い詰めることになりました」

その笑みに滲むのは、隠しようも無い……哀しみ。
窓から差し込む陽をうけて、柔らかな金の髪が艶を増して輝く。
輝きが増すほどに哀しみの色は濃く、切なさを感じさせるものへと変化した。

「……不老と長寿?」
「そんなのは迷信だ。じじいとやって不老長寿になれるなら、おちびはとっくになってる。だからヴェルが……ま、この問題は俺様が今此処でどうこう言うべきじゃねぇな」

竜帝さんは尻尾をゆらゆらと揺らしながら言った。

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