四竜帝の大陸【青の大陸編】
「はぁああ~……ったく。ダルフェの奴、でしゃばりやがって……」

天井に向けられてた目をつぶり、大きな溜め息をついた。
つぶやくような小さい声には乱暴な口調なのに力が無く、心底困ったような……あれ?
今、ダルフェさんって言ったよね?

「竜帝さん、ダル……」
「トリィ様」
「え?」

竜帝さんにダルフェさんのことを尋ねようとした私は、セシーさんの突然の行動によってそれを中断することになった。
セシーさんの右手が私の髪をそっと掴んだから。

「セシーさん?」

彼女は車椅子から立ち上がっていた。
右腕が私へと伸ばされ、濃紺のドレスの袖を飾る銀の透かし細工のブレスレッドが煌めく。
その冴えた輝きは、ミーメイちゃんに向けられたカイユさんの刀を私に思い出させた。

「不老長寿を得たいがため、<竜宮>へと忍んでくる者達が……女も男も多くいました。ですが女で拒まれたのは、魔女である巫女王だけ……」

<監視者>と交わると不老長寿になれるという迷信。

不老長寿を得たいがため、<竜宮>へと忍んでくる人達がいて。

その女性達を、ハクは。

その女性達は……ハクと?

「それは気位の高い彼女にとって、耐え難い苦痛となり……ヴェルヴァイド様に恋焦がれた彼女はその欲念のまま、自分と容姿の似た女を<竜宮>に集めたのです」

巫女王以外は……。
拒まれたのは、先代魔女だけ?

「目鼻の形……顔の作り、髪や目の色や声。自分と一つでも共通点がある女達を、国中から集めました」

理由は、魔女だから。
彼女は恋焦がれ、拒まれ……似た女性を?

それって。
それって、つまり。

「セシーさ……」
「ふふっ。巫女王はその女達と過ごすヴェルヴァイド様を、日々眺めていたんです」
「……眺め?」

セシーさんの言葉が。

「ええ、すぐ傍で……手を伸ばせば触れられるほど近くで。彼女は飽くことはなく、それを繰りかえしました」

耳から入って、私の胸の中をゆっくりと這い回る。

「彼女は非常に激しい性格でした。嫉妬心を抑えられず、やがて身代わりにした女を殺害し始めました。身代わりにしては殺し……そうせずにはいれぬほど、一人の男としてあの方を愛していたのです」
「……身代わり……殺し……そんなこと、そんなっ」

< 683 / 807 >

この作品をシェア

pagetop