四竜帝の大陸【青の大陸編】
姫さんが皇太子に恋愛感情を持つことはない。
でも、姫さんの頭の中からこの皇太子の存在が消えることは無い。
姫さんが内に隠し、押し殺した皇太子への……他の男への強い感情。
だから、旦那は言った。

---我がこの世で最も嫌いなモノは、お前だ

嫌い、か。
そりゃそうだ。
 
---万が一にでも、奇跡が起きて孕んだならば

あの人は。
黒の爺さんにはっきり言った。
 
---我のりこに入り込んだ“異物”を引きずり出し、この手で引き裂いてやろう

自分の子さえ、異物と言い切った旦那だ。
つがいに対しての独占欲と執着心はどこまでも深く……暗く、激しい。
 
「……閣下の仰る通りっすよ、殿下。陛下、籠の準備は終わってます。いつでも出れます。一応、護衛としてヒンデリンをセイフォンまで同行させます。あいつでいいですか?」

俺の言葉に陛下はうなずき、青い翼を動かして皇太子へと寄った。

「適任だ。さすが、手際が良いな。ダルド、お前達はもう発った方がいい」

青い爪を持つ手を、皇太子の両頬に添えて言った。

「ダルド、俺様はお前を助けてやれない……すまない」

皇太子の額に、こつんと自分の額を合わせて。
陛下は言った。

「元気でな」
「義父上……青の竜帝陛下」

誕生日にハニーを使者に使うほど、陛下はこの人間を可愛がっていた。
特別扱いしていた。

「さよなら、ダルド」

陛下は額を離し、とがった口先をそこへ軽く触れさせた。   
この皇太子が幼い時、陛下は数年間手元に置いた。

何故、セイフォンの皇太子を<青の竜帝>が……気にならないわけじゃないが、自分から訊く気にもなれない。
訊いて、知って、何が変わる?

「俺が発着所までご案内しますよ、ダルド殿下」

今、この皇太子を映す陛下の青い瞳を見たら。
知りたくないとすら、思ってしまった。
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