四竜帝の大陸【青の大陸編】
意思を持って我がこの皇女に触れたのは、これが最初であり最後。

「ダルフェ。これの化粧を直し、髪を整えろ。これの首に装飾品を」
「俺は料理は出来ますが、化粧は無理っす。専門の者を呼んで、すぐに済ませます。ったく、一国の皇女が侍女の一人さえ連れこないなんてね……それと、首ね。装飾品……う~ん、ハニーのを借りるかなぁ」

この皇女は、我の前に他の女を同行させたことは無い。

「皇女よ」

皇女の管理するメリルーシェの<竜宮>で我が目にしたのは、男のみだった。
どの国の<竜宮>も女ばかりだったことを思うと……。
今まで気にしたことはなかったが。

皇女が女より男が好きだからか?
それとも、この皇女は自分以外の女が嫌いなのだろうか?
「我はお前が“昨日のよう”に、美しい女であることを望む」

昨日のこれがどうであったかなど、我には記憶が無い。
居たのは分かっていたが、見てはいないのでな。

「あぁ、貴方様がわたくしを美しいと……<監視者>様っ……」

昨夜、りこはこれが『綺麗な皇女様』だと言った。
<青>のもとから南棟に戻ると、りこは寝台にいた。
夜着に包まれた膝を抱くように座っていた。

---おかえりなさい、ハクちゃん。---りこ……風呂から出てしまったのか。
---ねぇ、ハクちゃん。メリルーシェの皇女様……綺麗な皇女様だったね。
---そうか? 
---うん、すごく綺麗な人だった……綺麗過ぎて張り合う気にもなれないから、明日はある意味気楽かなぁ~はははっ……はぁあああ。

りこはカイユを綺麗だと言い、ランズゲルグも綺麗だと賞賛する。
カイユもランズゲルグもりこの気に入りだ。

りこは、綺麗なモノが好きだということ。
ゆえに、我はりこの好む綺麗なモノを集め、りこの周りをお気に入りで埋め尽くす……この世界をりこにとって好ましい、価値あるものにするために。
だが、我にはりこの好む綺麗が分からない。

カイユとランズゲルグだけでなく、我までも綺麗だと言うりこの『綺麗』が分からない。

「皇女よ」

我はりこから生まれ育った世界を奪い、家族を捨てさせた。
我はりこにこれから生きる世界を与え、望む全てを得させたい。
手に入れたそれらを、手放したくないと望む世界を。

最高の檻を、貴女に。

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