四竜帝の大陸【青の大陸編】
「だん……ヴェ……ヴェルヴァイド?」

『大丈夫』じゃない<ヴェルヴァイド>なんて……。

「ぼさっと突っ立ってるなっ、この役立たずっ!」

衝撃が、俺を襲った。

「ぐごぉっ!?」

馴染んだ感覚に、揺らいでいた思考が強制的に戻される。

「ハ、ハニー!?」
「ダルフェ! のん気に床にめり込んでないで、さっさと立て!」

好き好んでこの状態になったわけじゃなく、有無を言わさず強制的にっつーか……。
俺の背に蹴りをいれたカイユは、次の標的へと容赦無く牙をむく。

「陛下、そのような情け無い顔をなさいますな! お立ちなさい!! つがいを奪われたまぬけな雄の首など、そこら辺に転がしておけばよいのです!」

仁王立ちしたカイユの怒声に、陛下がびくりと尾を上下に動かした。

「カイッ……っ!」

口を開いた陛下を睨みで黙らせ、カイユは自分のポケットに手をいれ伝鏡を取り出し……床に叩き付けた。

「ひびが入ってる、これじゃ使えない! ダルフェ、伝鏡!!」
「へ? あ、はい!」

差し出された手に、俺は自分の伝鏡を出して手渡した。
思わずひざまずいて伝鏡を差し出した俺を笑う奴は、ここにはいなかった。
陛下は旦那の頭を抱いたままぺたりと座り込んでしまっているし、第二皇女は干物と成り果てて二度と笑うことなどできないのだから。

「プロンシェン、聞こえる? 特大サイズのゴミ箱を温室に持って来て! ニングブックは溶液を準備! 濃度!? 調整なんて必要無いっ、原液でいい!」

団長の顔になったカイユが、待機中のプロンシェン達に指示を出す。
ゴミ箱って……溶液ってことは、それにこの状態の旦那を入れて運ぶ気かよっ!?

「ゴミ箱!? おい、そりゃあんまりなんじゃっ……ごぶうっ!!」

間髪入れず俺の頬を拳が襲う。
ああ、これぞいつものハニーだ。

「術式を仕掛けた皇女を斬ろうとした私の腕を折って邪魔したのは、そこの生ゴミ……ヴェルヴァイド様よ!? ゴミ箱で充分よっ!」 
「なっ!? 旦那がカイユを!?」
「ええ、そうよ。……折れただけですんだのだから、手加減してくれたんでしょうけど」

カイユは折れていた腕を付け根から回し、完全に治ったのを確認すると、俺の腰から剣を抜いた。
抜き身の剣を手に、横たわる旦那へとカイユはその足を向ける。

「ふふっ……見事なまでに、ばらばらね」

旦那の身体を水色の瞳で見下ろし、言った。
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