四竜帝の大陸【青の大陸編】
「私、これを見たのは2回目だわ」

躊躇い無く旦那の右腕に刀を突き刺して、俺の顔に突き出す。
切断面が、良く見えるように。

「見て。似ているでしょう?」

そのカイユを陛下は床に座ったまま見上げていた。
陛下の大事な『じじい』の一部をぞんざいに扱うカイユを見る目にあるのは怒りではなく、期待。

「ほら、切断面がぐちゃぐちゃで汚いでしょう? あら、覚えてないの?」

カイユの言葉に、陛下も気づいたんだろう。
なぜ、旦那が俺と同じように……俺以上にばらばらになっちまったのか。

「あのねぇ、自分じゃそんなの見れないだろう? それに俺が見てたのは……」

転移は術式の中でも一番リスクが高い。
探知能力以外並以下の術士じゃ、魔薬を使って転移が使えたって術の精度は低い。

その分、負荷は数倍のもにになるはずだ。 
旦那が皇女を討とうしたカイユを止めたのは、中途半端にしたらまずかったからだろう。
その上で姫さんにいくはずだった負荷を全て、自分に転移させたのか!?

「そうね。あの時、貴方が見てたのは私だけだった」
「その通りさ、ハニー」

カイユは皇女が姫さんを転移させたので、負荷で死んだと思った。
だが、旦那の状態と過去の経験から判断したのか……なるほどな。

「カイユ。……竜帝は自分でつけた傷は治りが遅いんだ……身体の再生がうまく働かないっていうか……もしかして、だからヴェルもっ」
「そうです、陛下。ヴェルヴァイド様はトリィ様が受けるべき負荷を、全てご自分に転移なさったのでしょう」

そう答えながら、カイユは笑った。
艶やかな唇からのぞくのは、鋭い牙。
額には空色の鱗が浮かび上がる。
怒りのために、肉体が竜体へと傾いているのだろう。

「この世界のどこかで、トリィ様は生きている」
 
カイユは旦那の腕が刺さった剣を、床へと捨てた。
それを合図に、青い竜が立ち上がる。
血潮を踏みしめ、背筋を伸ばし。
大事な大事な『じじい』をそっと床に置き。

「カイユ、電鏡の間に四竜帝全員を呼び出せ」

<青の竜帝>として、<青の竜騎士>に命じた。

「はい、陛下」

深々と一礼し、嬉々としてカイユは答えた。
俺はそのカイユの姿に見惚れ、眩暈がした。

あぁ、カイユ。
俺のアリーリア。

君は。
世界最強の<ヴェルヴァイド>の血溜まり立つ君は、最高に気高く。
牙を隠さぬその微笑みは、残酷なまでに美しい。

 
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