四竜帝の大陸【青の大陸編】
青の麗人が髪を掻き毟りながら、こちらへと渡り廊下を駆けてきた。
アーチ型の天井を支える列柱の間に等間隔に置かれた陶器の植木鉢には青い絵付けがされ、八重咲きの白い花が華やかに咲誇っている。

その美しい花々すら霞んでしまう、天上の美貌の城主。
その後ろを早足で追うカイユの眉が釣り上がっていたのは、見なかったことにした。

「陛下、どうかしましたかぁ?」

カイユの視線が俺に突き刺さるのを感じつつ、興奮で頬を染めた陛下に声をかけた。

「ダルフェ、大変だ!」

陛下は俺の胸倉を掴み、左右に振りながら言った。

「ヴェルがいねぇんだ!」

この青の竜帝は俺よりずっと背が低……いや、これは禁句だな。
竜族の雄にしては小柄で体も細いが、竜帝のできそこないの俺なんかより強い個体だ。
その気になれば俺を殺せるそのパワーで、俺をぶんぶんと激しく振った。

「ゴミ箱にじじいがっ! ヴェルがっ! 生ゴミがぁあああっ!!」

ゴミ箱と生ゴミ。
あのままゴミ箱を使ってたんですか……温室でカイユがゴミ箱に旦那を無造作に突っ込むのを見て、文句言ってたクセにねぇ……陛下、カイユには強く出れないからなぁ。

「まさかっ……俺の部屋に置いといたから、塵収集担当が間違って生ゴミ処理場に!? だから普通の水色ゴミ箱なんて、使うべきじゃなかったんだ! 俺様の『青』に塗装した特注品を使えば、こんなことにはっ!!」
「……くくっ……ぶはぁっ!」
「陛下、落ち着いてください。ダルフェ、笑ってないでなんとかしてちょうだい」

思わず噴出した俺から陛下をはがし、カイユは陛下の乱れた髪を手櫛で整えながら言った。

俺は自分の制服の襟を緩めながら、愛する妻の要望に答えるべく腹の内部がよじれそうになるほどこみ上げてくる笑いを全力で押し戻す。
うん、いいねぇ。
この陛下、本当に面白くて好きだ。
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