四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ほら、ちゃんと見とけよ? 手のひら中央に刃先が出ただろう?」

――っ!!

地面に押し付けられていた右手は、手首を掴み直されて無理やり向きを変えられた。
増した痛みと、次は何をされるのかという不安と恐怖でうまく息が出来ない。

「一気に抜くぞ。……さて、この雌は治癒にどれくらいかかるか…………ん? 思っていたより、早いな」

視線を、手に感じる。
2人の濃い茶色の瞳は、血だらけの私の手を見下ろして……。
布の透き間から僅かに覗く濃い茶色の目は、私を<人間>ではなく<竜族>として観察している。 
 
「うわっ、傷が塞がってくぜ!? ぱっと見は普通の女だけど、やっぱ大蜥蜴の雌なんだなぁ」

驚きを隠さぬその言葉に、私は自分の手を見た。
まるでそこだけ時間の流れが違うかのような速度で、まだ乾かぬ血の下で傷が……消えていく。

傷が治るのと同時進行で痛みが和らぎ、皮膚が軽い火傷をした時のような感覚だけが残った。
やっぱり、私の身体は以前と違う。
ハクは何も言わないけれど、私の身体はどうしちゃったの!?
この傷の治りを目にしたら、この人達は私を普通の人間とは絶対に思わない……竜族と勘違いして、当然。
口が利けるようになって私が人間だと主張しても、きっと信じてはもらえないだろう。

「竜族の血肉が古くから秘薬として取引されるのは、この能力のせいだ」

言いながら自分の黒い帯を片手で器用に解き、血のついた刃物でそれを20㎝ほど切った。
それで刃先についた血液を拭き取って、背の高い人に返した。
帯は長く、端を少々切ったくらいでは使用するのに全く問題無いようだった。
そして帯を手早く締め直し、言った。

「まぁ、効果のほどは定かじゃないが。それでも買いたって、目の色変える阿呆な金持ちは多い」
「なるほどねぇ~。う~ん、でも血肉売るために飼うってのは、やっぱり無しだな。俺、餓鬼ん時から蛇とか蜥蜴とか嫌いなんだよ。よっしゃ、来月の競りに出すか!」

返されたそれを鞘へと仕舞い、空を見上げながら言う彼の言葉に私は耳を疑った。
競り?
競り!?
それって、私は売られるってこと!?
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