四竜帝の大陸【青の大陸編】
「私にも半分寄越せよ? 独り占めしようとしたら……どうなるか、分かっているな?」  
「わ、分かってるって! この雌、顔は地味だけど伝説の<監視者>みたいな黄金色の目玉だし、人間の女に飽きたモノ好きな客には受けるかもな。娯楽用だけじゃなく、血肉にも金になる価値があるってんだから、すげー高値になるな!」

興奮気味で高くなった声とは対照的な冷めた声で、右手に私の血を吸った布を持ったままその人は答えた。

「<監視者>が伝説? とことん無知だな」

<監視者>。
ハク、ハクのことだ!
会話にハクのことが出てきたので、私は地面に倒れこんだまま顔だけあげて2人を交互に見た。

「<監視者>は伝説なんかじゃない、<監視者>ってのは確かにいるんだ。絶世の美女で有名だったドラーデビュンデベルグ帝国の皇帝が死んだのは、術式に失敗して異界の生物をこっちに持ってきちまって<監視者>に処分されたんだ。知らないのか?」
 
私が見ていること、聞いていることに気づいているはずなのに。
それを全く気にする様子はなく、彼等は会話を続けた。

「そんな遠い国の事なんか、知らねぇよ。ふ~ん、そうなのか……。でも俺達には<監視者>なんて得体の知れない物騒な奴、関係無いだろう? 異界からやばいモン持ってきたりしねぇもん。あ、俺は蜥蜴嫌いだから、その女に触りたくない。あんたに頼んでいい?」
「……ったく、仕方ないな」

背の低い人……私の手に刃物を突き刺した人が、私の胴に左手を回して持ち上げた。
彼はまるで荷物のように私を脇に抱えると、右手に持っていた布を地面へと投げた。

そこは、私の手から流れ出た血で色が変わっていた場所で……。
私を抱えたまま、彼は右手で顔を覆っていたターバンのようなベージュの布を外した。

露になった顔は日に焼けた肌、はっきりとした二重の目。
口元は白髪の混じった黒い髭が囲み、目元にはまるで傷跡のような深い皺。
50代後半から60代……くらいかもしれない。
髪は全て剃られ、両耳には乳白色をした雫形の大きな耳飾。
その耳飾を片方取り、投げ捨てた布へ勢いよく叩き付けた。
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