四竜帝の大陸【青の大陸編】
「おい、ジリ。おっさんって、旦那の事か!?」
「ぎゅ? おぢい、おっさん! おぢいっ! おっさん!」

ジリギエはうなずきながら、旦那に布切れ玉を投げ続けた。

「おっさん……おぢい?」

うわっ、舅殿かよっ!?
セレスティス……ったく、あの人は!
四竜帝すら敵わぬ<ヴェルヴァイド>におっさんを連呼する我が子……それが問題かというと、問題無しだなぁ。

「“おっさん”ねぇ。まぁ、旦那がそれに怒るなんて事はないだろうしなぁ。好きに呼べばいいさ」

俺も餓鬼ん時に“おじさん”って言ったけど、旦那は全く気にしてないようだった。
世界最高齢竜なんだから、おじさん・おっさんというより“おじいちゃん”が正しいような……いや、旦那に“おじいちゃん”を適用するとなると、全世界の[おじいちゃん基準]が乱れる気がする。

「おっさん! おっき、おっき! おっさん、ジリ、おっき!!」

おっさん呼ばわりされようと、旦那は赤い格子模様の色あせた布を握ったまま置物のように動かない。
あれからずっと、<ヴェルヴァイド>はここにいた。
竜族が総力をあげて姫さんを探すと言う陛下に、返事も意見も口にせず。
ただ、そこにいた。

「……旦那」

ジリギエが次々に投げた布に、その身体が埋まっていく。
投げやすいように丸めた布は白い鱗に当たり、ふわりと広がる。
ジリギエの投げつけたそれらは、瞬時に花弁を開く蕾のようだった。
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