四竜帝の大陸【青の大陸編】
布切れで出来た蕾は色とりどりの花となり、旦那を俺の視線から隠し……俺は幼い日に見たある光景を思い出す。
棺に収められた魔女オテレ・ガンガルシーテの遺体は、彼女が愛した花々で満ちていた。

華やかで色鮮やかなそれは、絵本にあった妖精の寝床。
横たわる老女の蝋のような肌を、隙間無く入れられた花が美しく飾っていた。
それが、オテレばあちゃんが最も“お洒落”していた姿だった。

「……ねぇ、旦那」

彼女が俺のせいで寿命前に死んだ七日後に、俺は<ヴェルヴァイド>と初めて会話した。
俺は、初めて会ったあの時から。
あれ以降も、旦那に会うたびによく話しかけていた。
幼い俺は一方的に喋り“聞いてもらった気分”になって、それで満足していた。

言いたい事を言い。
訊きたい事を訊いた。
返事がもらえなくても、かまわなかった。
必要な時のみ……これも違うな、必要な時に喋るなんてことはできない人だと、子供心に感じていた。

他人との意思疎通を望むこともなければ、拒否するでもなく。
拒まず、受け入れず。
ただ独り、そこに居る。

それにあの時の俺は、救われた。
でも、俺は変わり。
<ヴェルヴァイド>も変わった。
ねぇ、旦那。
そこに‘居るだけ’では、俺もあんたも救われないんだよ。

「俺は」

姫さんというつがいを得て、旦那は変わった。
まるで幼い時の俺のように。
俺に言いたい事を言い。
俺に訊きたい事を訊いて来る。
旦那を動かす原動力は、異界から来た黒髪の娘。
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