リーシュコードにて
「玲子ママ、今まで、お世話になりました」
すると誠は、下を向いたまま自分のグラスを顎の高さまで上げた。
それは、あのオープンのときと同じしぐさだった。
誠が全く未来を見ていないことだけをのぞけば。
「こちらこそ、お世話になりました」
玲子も、あのときと同じ深々とした礼を返す。
そして玲子は、気を抜くとあふれる涙を飲み下すように、香り高いジンをぐっとあおった。
するとにじんでいく酔いと共に、幾つもの誠との思い出が、
まぶしいほどの真夏の輝きを伴って胸によみがえってくる。