リーシュコードにて
「玲子、大人になったら、俺と美味いもの出す店やるんじゃなかったか?」
しゅんとうなだれる玲子に微笑む誠からは、
相変わらず海とサーフボードに塗るワックスの匂いがしていた。
その眼差しは、お前は本気で自分の夏を、
海との蜜月を終わらせるつもりなのかと問いかけていた。
そのとき玲子は、楔を打ち込まれたように改めて強く感じたのだ。
鉄平から誠へ、そして自分へと、受け継がれ、流れてきた、
あの理由すら必要としない海を求める思いの激しさを。
玲子は、たとえもう二度とサーフィンができないとしても、
湘南の海から離れて生きるつもりなどなかった。