最後の恋、最高の恋。
右手を坂口さんの大きな手のひらで覆われてるだけだから、逃げようと思えば自分のいるドアから出れるのに、それができなかった。
手から伝わる久しぶりのつないだ感触が心地よすぎて。
離したくない、のが本音で。
だから黙ったまま、坂口さんにされるがままにしておいた。
「美月ちゃん、とりあえず春陽ちゃんにスーツにストッキングに携帯に、簡易の化粧道具とお財布を預かってきたからね。 確認しておいて」
少し遅れて運転席に乗り込んだお姉さんが、以前パジャマを買ったときに貰ったショップバッグを渡してくれたので、彼の腕の温もりを名残惜しく想いながらも離して、両手で受け取る。
車にエンジンがかかって走り始めても坂口さんもお姉さんも無言で、私も何を話していいのかわからず暗がりの中でショップバッグの中身を確かめた。
皺になりにくいようにたたまれたスーツに、いつも持ち歩いている化粧ポーチ、携帯にお財布に新品のストッキング。
それらの一番上に覆いかぶさるように置かれていた少し大きめのメモ用紙には、お姉ちゃんの字で、“美月も自分の気持ちに素直に”とだけ書かれていた。
暗くて見えにくいのに、何故かその文字がはっきり見えたのは、素直になりたいと自分が思っているからだろうか。