犬と猫…ときどき、君

「ハルキさん、話したい事があるんですけど」

研究室のパソコンで実験のデータをまとめていると、背後からいつものアイツの声がして、視界に入った予想通りの人物に、盛大な溜め息を吐いた。


ゆっくりと振り返った視線の先には、松元サンの姿。


「……何?」

一瞬振り返りはしたものの、すぐに画面に視線を戻し、キーボードを叩きながら無愛想に言葉を返す。


彼女とは、極力話しをしたくない。

勿論一つは、胡桃に嫌な思いをさせたくないから。


だけど、もう一つ。


「昨日、また友達が見たらしいんです」

「……」

「ハルキさんが実験をしてる時間に、及川さんが芹沢さんの部屋に入って行くところ」

それは、こんな女の一言で、胸の中をモヤモヤとさせる、弱い自分が許せなくなるから。


一緒にバイトをしていた頃は、全く興味もなかった彼女。

そんな彼女を、好きだとか嫌いだとか、そんな風に考えた事さえなかった。


だけど、まるで“いい事をしてるでしょう?”――そう言わんばかりの表情で、何度も何度も、胡桃と及川さんの話しを持ち出してくる今の彼女に対して湧き上がるのは、負の感情ばかりだ。


――こんなヤツの言う事を、真に受ける必要はない。


それは、わかってる……。

前までだったら、こんな女に何を言われたって何とも思わなかったと思う。

でも最近、確かに胡桃の様子がおかしいんだ。


正確にいつからかと聞かれたら、ハッキリとは答えられないけど……。

多分あの日、及川さんと電顕室で会ったと言っていた日からだと思う。


家に帰ってからも、ボーっとしている事が増えた気がするし。


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