犬と猫…ときどき、君

“女は面倒くさいんですよ”――一度だけ、大して話を聞いてもいない俺に、松元サンがそう口にした事があった。


“いつでもみんな一緒で、秘密を共有して喜んで……。だけど、自分の求めるものが、そいつのせいで手に入らないと分かると、【友達】なんて簡単に切り捨てるんです”


「本当の松元は、あんなんじゃないんです」

頭の中で、仲野の言葉と、あの時松元サンが一瞬見せた表情がリンクする。

きっとあれが、仲野の好きな“本当の松元サン”の姿なんだろう。


「お前の言いたい事はわかったけどさ、だからと言って、俺はあの女を許す気にはなれないんだよ」

「……」

「あのサイトは、消すぞ?」

「……」

「仲野」

「はい……」

「俺にも、守らないといけない物があるんだよ」

仲野が手段を選ばず松元サンを守るみたいにさ、俺は何があっても、胡桃を守りたいって思ってる。


「城戸さん」

突然かけられたその声は、妙にハッキリとしていた。


「あー?」

「最初から、こうすべきだったんですよね?」

俺の目を真っ直ぐ見つめて少し笑った仲野は、どこかスッキリした表情まま、カバンの中から篠崎の物よりも一回り小さなパソコンを取り出した。

――そして。

「仲野!!」

それを、驚く俺の目の前で高く持ち上げ、思いきり床に叩き付けたんだ。


一瞬、静まり返る居室。

先に口を開いたのは、仲野だった。


「芹沢さんの画像のデータは、全部この中です。サイトに貼った時も、一応コピー出来ないように加工はしてたので……。でも、それでも出回ってしまった分を、回収するのは難しいけど」

「……」

「いつか、芹沢さんにも、きちんと謝ります。出来れば、松元と一緒に」


仲野……。


「……悪い」

「え?」

申し訳なさそうに瞳を伏せた仲野に、俺はどうしてもそれを告げないといけないと思った。


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