犬と猫…ときどき、君

「仲野」

「はい」

「事情があって、俺はまだ松元サンと別れられないんだ」

「わかってます。松元から、色々話は聞いているので……。あいつがしている事は、大体」

“察しが付いている”――きっと、そんな言葉が続くんだと思った。


「そっか」

それを知った上で、それでもあいつの事が好きなのか。

お前はホントに……。


一度瞳を閉じた俺は、ゆっくりと息を吐き出すと、仲野を真っ直ぐ見据えた。


「いつか必ず、あの子が俺から離れる時が来るから。その時は、お前があの子の傍にいたらいいと思う」

「……」

「ん?」

「城戸さん、お人好しすぎます」

小さく肩を震わせる仲野の口から発せられた言葉に、俺は思わず笑ってしまう。


「それ、さっき篠崎にも言われたから、もういいわ」

「……」

「それに、俺はお人好しじゃねーし。ただのエゴの塊なんだよ」

自嘲的に笑った俺を、一瞬辛そうに見上げた仲野だったけど。


「聞いてもいいですか?」

言葉を選ぶように、ゆっくりとそう口にして、俺の瞳を覗き込んだ。


「どーぞ」

「俺はあんなヤツでも、やっぱり好きで、救いたいって……本当に思うんです」

「あぁ」

「でも、時々揺らぎそうになる。逃げたらどんなに楽だろうって」

「……」

「城戸さんは、どうしてそんなに強くいられるんですか?」


――強く?

俺は、そんな風に見えてるのか?


中野の口から、何度か発せられているその言葉。

だけど、感じるのは違和感ばかりなんだ。


「俺はさ」

「はい」

「強くなんかない」

後輩の前なのに……。

情けないほど、震えるその声に、仲野が目を見開くのがわかった。


だけど、抑えきれそうになかった。


「俺は胡桃を失いたくなくて、あの時の約束にしがみついてるだけなんだ」


“ずっと、死ぬまで私だけを見て”

“その先も、ずっと”


不安げに瞳を揺らした胡桃の、小さな紅い唇から紡がれたその言葉。


「ずっとあいつを見ていたいのは、俺の方」

「……」

「いつまでも離れられないでいるのは、俺なんだ――……」


仲野。

お前は俺の事“強い”って言うけどさ、俺が胡桃から離れられないのは、きっと俺の心が、弱いからなんだよ。

離れたら、もう戻れないって分かってるから、だからこんなに離れることを怖れているんだ。


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